
ぼおるぺん 古事記 一
ボールペンで描かれた、優しい雰囲気の古事記。名作です!
平凡社のWEBマガジン「ウエブ平凡」( http://goo.gl/SgBp1 )で連載されていた『ぼおるぺん古事記』の単行本化。第一巻となる「天の巻」では、天地創生、国生み、黄泉の国、天岩戸、ヤマタノオロチ退治までのエピソードが描かれています。
この作品の最大の魅力は、タイトルのとおり、すべての絵が「ボールペン」を使って描かれていること。とてもやわらかで温かみのある線で、とても味があります。また、主要な神さまであるイザナキやイザナミ、アマテラスやスサノオなども、みんなとても可愛らしく描かれていて、全員に好感を持ちますね。
黄泉の国へ下ったイザナギがイザナミに待たされるシーンで、イザナミが退屈してくるところの描写なども良かったです。穀物の神であるオオゲツヒメが、吐瀉物や排泄物から食べ物を生み出し、スサノオに殺されてしまうシーンなど、どう考えてもグロテスクなんですが、この方の絵で見るととても優しい雰囲気になっています。
また、古事記には様々な神さまが登場してきますが、そのほとんどは一度名前が出てくるのみで、その存在を省略しても大きな影響はないでしょう。しかし、作者さんは全ての神さまをキャラクター化しています。その数は、1巻だけで100柱にも及ぶとか!この神々がみなとても愛らしくて、例えば、イザナギは黄泉の穢れから身を清めるために禊を行った際に生まれた、ややマイナーな存在の神さま「道之長乳歯神(みちのながちはのかみ)」は、道路標識っぽくデザインされていたりします。よく色々と考えるなーと感心しました。
ちなみに、そんな可愛らしい絵の漫画ですが、本文には現代語訳ではなく、あえて原文のトーンを残した書き下し文を使用しています。絵柄とのギャップが面白いですね。ただ、ページ下部の注釈と何度も視線を移動させることになりますので、個人的には現代語訳の方が良かったような気もします。
今年は、古事記関連本が多数出版されていますが、その中でも独特のポジションにある作品ですね。まずはWebサイトで一部を見てみてください。優しい世界観に魅了されてしまうでしょう。秋には、続巻となる「地の巻」「海の巻」が同時発売されるそうですので、そちらも期待したいですね。
また、余談ですが、『出雲-古事記のふるさとを旅する (別冊太陽 太陽の地図帖 11)』( http://goo.gl/QRJwx )で、同じ作者さんがスサノオを主人公とした「おとうと」という、わずか6ページの作品が発表されています。やわらかで不思議な雰囲気のある小品ですので、興味がある方は探してみてください。