
『古事記』異端の神々 (太古日本の封印された神々)
古事記の神々を意外なアングルから読み解く一冊。やや古めですが斬新で面白いです!
図書館で見つけて何気なく手にとった古事記本。2005年発売とやや古く、作者の作品一覧(こちら)を見ると、「幻想の」「トンデモ」「異端の」などの文字が並んでいます。ちょっと危険な香りもしますが、この本は暴走することもなく、最後まで興味深く読めました。
説明文:「アマテラスが天石屋戸にひきこもった真の理由は? ヤマタノオロチを退治したのはクシイナダヒメだった? 大和朝廷が消し去った、古代日本の真実が見える! 「古事記」を通して、古代日本人の心の真実に迫る。」
時代を追って、全16章にわたって神々が取り上げられており、第一章「沈黙の始原神 アメノミナカヌシ」から、ヒルコ・アワシマ、アマテラス、オオゲツヒメ、オオクニヌシ、アメノワカヒコ、イワナガヒメ、トミビコ、ニギハヤヒなどについて考察しています。
筆者は、古事記の内容は一貫して創作されたものではなく、複数の部族に伝わるテキストを編纂したものだというスタンスに立ち、その繋ぎ目のほころびを指摘していきます。私のレベルでは、その主張がどのくらい正統派なのか異端なのか、微妙な立ち位置が分かりませんが、自著を含めて多数の論者の意見を引いて論じています。色んな読み方があるもんだと感心させられますね。
また、日本書紀との違いについて比較する箇所も多いので、これも興味深かったです(どこかの出版社さんで分かりやすく記述を比較する本を出してくれないかしら?)。
色んな意味で異常性にあふれていて、古事記神話の中でも個人的に好きな「大気津比売神(オオゲツヒメ)」のエピソードがあります。「高天原を追放されたスサノヲが、オオゲツヒメに食べ物を求めたところ、自分の鼻の穴、口、尻などから食べ物を出していたため、怒ったスサノヲに斬り殺される。その遺体の頭から稲が、両耳から粟が、鼻から小豆が、性器から麦が、尻から大豆が生えてきて、カミムスビは農耕のための種とした」というようなストーリーです。
これとそっくりな話が日本書紀にも載っていることが紹介されていますが、その主人公はスサノヲではなく、古事記ではほとんど出番のない「ツクヨミ」です。殺されてしまうのもウケモチ(保食神)で、そんな汚いものが食べられるかと斬り殺すまでは同じ。ツクヨミの乱暴な振る舞いに怒った太陽神アマテラスは、昼と夜を別けて顔を合わせないようにしたとか。改めて外界に使者を送ると、ウケモチの死体の頭からは牛馬が、額から粟が、眉から蚕が、目から稗(ひえ)が、腹から稲が、性器から麦と小豆が生えていて、アマテラスはその種を配って農業を始めさせたとされています。
古事記と比べて、昼と夜の起源、そして農業の起源が含まれているんですね。なお、ウケモチの死体から生まれた各種の種(や動物)は、朝鮮語で韻を踏んでいて、単なるダジャレで決められたという説もあるとか。さらに、このような神話は東南アジアに広く分布する「ハイヌウェレ型神話」に分類され、日本でも縄文時代に土偶があえて壊されて埋められていたことに共通点が見いだせるのではないか…といった説が展開されます。
もう一つ、特に興味深かったのが「因幡の白兎」のくだりです。ワニをだまして…というタイプの説話は南洋系の影響が見えるそうですが、主役はウサギではなく小鹿なのだとか。これは島根などの沿岸部にでは、白波が立つことを「ウサギが走る」といい、海に漕ぎ出すものにとってはウサギは海が荒れることを知らせてくれる使者だと考えられたために、ここに登場したのではないかと。色んな見方があるものですね。
文章の難易度もそれほど高くありませんので、古事記を違ったアングルから見なおしてみたい方はどうぞ。