2013-02-26

ぼおるぺん古事記 三 海の巻

人気シリーズ完結編!優しい絵と迫力のコマ割り。筆者の温かい視線が感じられる傑作です

古事記をモチーフにした人気コミックがついに完結!古事記編纂1300年イヤーだった2012年、さまざまな古事記関連本が出版されましたが、その中でも個人的にもっとも楽しませてもらったのが、この『ぼおるぺん古事記』シリーズです。最後まで淡々と古事記の世界を描ききっていて、楽しかったです!


説明文:「大好評コミックスがついに完結! 天孫降臨、ニニギの結婚、海幸彦・山幸彦、海神の宮訪問のエピソードなど、神代最後の時代を描く。短編漫画「おとうと」、神さま大系図も収録。」


最終巻となる『(三)海の巻』では、いよいよニニギの天孫降臨と結婚、海幸彦・山幸彦、のエピソードが描かれます。地上に降り立った神々が、ますます人間っぽく振る舞い始める部分で、現代人から見ても嫌らしい行動が目立ってきます。しかし、ここでは決して悪人とは描かず、やわらかく描写されているのがいいんですよね。

例えば、ニニギの結婚の段では、美人の妹コノハナサクヤヒメだけを娶り、不細工な姉イワナガヒメは親元へ送り返してしまいます。天孫であるニニギのひどい振る舞いで、これがきっかけで神であるにもかかわらず寿命を持つようになったというペナルティーを受けます。一方的な悪行にも見えますが、ここでのイワナガヒメはとんでもないビジュアルとして描かれています(その姿は実際にご覧ください)。「これなら結婚できないわ!」と思わず納得するほどでした(笑)

このような優しさは、質の悪い兄弟げんかである海幸彦・山幸彦のエピソードでも共通していて、とても読みやすいんですよね。

また、このシリーズの魅力は他にもあります。他の古事記モチーフの漫画では、すべてのエピソードをもらさずに描こうとするため、どうしても説明的になりやすく、漫画としての楽しさが損なわれている感があります。それが古事記の全容を知ってもらうためには最良なのかもしれません。

しかし本作では、筆者さんが面白いと思ったエピソードだけを丁寧に描いているのがいいですね。ボールペンを使った絵も美しいですし、漫画らしい迫力のあるコマ割りも素晴らしいです!一コマを引き伸ばしてパソコンの壁紙にしたくなる古事記漫画って、他にはまずありませんね。

また、このシリーズの特徴として、セリフなどがすべて「訓み下し文」になっています。現代語訳ではないので、文章だけを見ると意味が取りづらいのですが、漫画にするとこれがピタリとはまるんですよね。

作者さんは、それまで何度か現代語訳の古事記を読んでいたそうですが、初めて訓み下し文と原文を見てこう思ったそうです。


擬音や神々の名前までもが立体的に物語を構成していて、見た事もないほど鮮烈で奇想天外でした。そして、初めて見た原文は、「記す」喜びにあふれていました。
漫画になるのを待っている! と感じました。

あとがきより


その意図は見事に成功していると言えるでしょう。

「漫画で古事記を学ぶ」のではなく、「漫画で古事記を楽しむ」ためには本作がベストだと思います。現代語訳ではないなどややクセのある構成ですから、誰からも100%受け入れられるとは思いませんが、古事記は難しくて…と思っている方には真っ先に薦めたい作品ですね。

ぼおるぺん古事記 (一)天の巻』(紹介記事)・『ぼおるぺん古事記 (二)地の巻』(紹介記事)とありますので、ぜひ読んでみてください!


『<$MTEntryTitle$>』より

『<$MTEntryTitle$>』より

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