岡本太郎 神秘 (Art & Wordsシリーズ)
太郎さんの民俗学的な写真と彼の言葉を集めた不思議な一冊
芸術家・岡本太郎さんが、日本全国を歩いて撮影した民俗学的な写真と、彼の言葉を集めた、写真集のような一冊。
明るい色彩の抽象芸術が有名な岡本太郎さんですが、1957年~63年にかけて、日本土着の祭りなどを取材しており、各地で感じた驚きが、以降の作品にも大きな影響を及ぼしています。青森・秋田・和歌山・大阪・長崎・沖縄などを周り、各地の伝統的な祭りなどに立ち会った様子は、『日本再発見』という本にまとめられました。その民族的で土着的な所作を肌で感じ、諏訪地方の御柱際などに傾倒したエピソードは有名ですね。
太郎さんが撮影した写真は、決して上手では無いのですが、被写体を特徴的に切り取るパワーはすごいです。それを写真家の内藤正敏さんがトリミングしたりして、暗めの白黒写真にプリントした作品が収められています。また、写真に添えられた言葉は、パートナー岡本敏子さんが過去の太郎さんの言葉から選び出したもの。彼の死後、写真と言葉をリミックスして新たな作品を生み出しています。
写真に添えられた言葉を、一部引用しておきます
●「芸術は芸術から生まれない。非芸術からこそ生まれるのだ。」
●「仮説だが、狩猟的なものが、生と死の直接的なからみあいを生活の基調としているのに、農耕文化の上を覆うているものは、性の象徴であると思う。」
●「神は自分のまわりにみちみちている。静寂の中にほとばしる清冽な生命の、その流れの中にともにある。」
●「神はこのようになんにもない場所におりて来て、透明な空気の中で人間と向かいあうのだ。なんにもない故にこそ、逆に、最も厳粛に神聖にひきしまる。」
このような力強い言葉が、どちらかと言うと薄汚く感じる住居の写真や、田舎暮らしの老婆の写真、祭りが行われる何もない場所を写した写真などに添えられています。ありきたりに見える日本土着の事物から、強いプリミティブな力を感じさせるのですから、さすがですね。