土門拳 古寺を訪ねて―奈良西ノ京から室生へ (小学館文庫)
ポケットに土門拳!西ノ京~室生の写真と文章を収録
仏像の撮影で有名な写真家・土門拳さんの写真と文章をまとめたビジュアル文庫「古寺を訪ねて」シリーズ(全4冊)の2冊目です。サブタイトルは「奈良西ノ京から室生へ」。薬師寺・唐招提寺・飛鳥の寺院・室生、各地の写真とエッセイを集めています。
西ノ京の薬師寺さんの仏さまたちは、実際に何度もお参りしていますし、写真集などでもよく拝見していますが、被写体を誰よりも見つめてきた写真家の言葉からは、色んな複雑なニュアンスが伝わってきます。
桜井市の聖林寺・十一面観音さんに関して、「ふと、これは三輪山の神 大物主の化身ではないか、と思えて仕方がなかった。」こんな感想が出てくるのも面白いですね。
それ以前に、東院堂・聖観音像の光背や飾りは「忍冬唐草文」、金銅・薬師三尊像は「宝相華唐草文」となっているとか。制作年は10年も違わず、印象もとても似ている仏さまたちですが、聖観音像の方が明らかに古い文様を残しているんだそうです。こんなことにも気づかないんですから、やっぱりこういう本を読んでおくべきですよね(笑)
なお、土門拳さんといえば「雪の室生寺」のエピソードが有名です。雪の室生寺の風景が撮りたかったのにチャンスに恵まれず、昭和53年の冬、雪を待って室生の山中にこもる決意をする。室生寺門前の橋本屋さんにもそんなに長逗留できないため、御所市の病院に入院して待っていたところ、東大寺のお水取りが終わった頃、ようやくそのチャンスが巡ってきて…というような流れです。
実は、本書はその撮影に成功する前の写真までしか収録されていないため、先生が撮影した雪の室生寺の写真は掲載されていません(笑)。しかし、その前後を描いた文章が収録されていて、この事情が伝わってきて面白かったですね。さらに、「室生寺ひとむかし」というエッセイでは、いつまでも変わらないように見えた室生の里の地元の人々のことに触れてあって、ちょっと切ない作品になっています。
本文も写真も面白く読めますが、巻末に掲載されている土門たみ夫人による語り下ろし回想記も興味深かったです。最後まで一気に読める、そしてこれから何度も読み返すことになるであろう一冊ですね。