2012-04-23

土門拳 古寺を訪ねて―奈良西ノ京から室生へ (小学館文庫)

ポケットに土門拳!西ノ京~室生の写真と文章を収録

仏像の撮影で有名な写真家・土門拳さんの写真と文章をまとめたビジュアル文庫「古寺を訪ねて」シリーズ(全4冊)の2冊目です。サブタイトルは「奈良西ノ京から室生へ」。薬師寺・唐招提寺・飛鳥の寺院・室生、各地の写真とエッセイを集めています。

西ノ京の薬師寺さんの仏さまたちは、実際に何度もお参りしていますし、写真集などでもよく拝見していますが、被写体を誰よりも見つめてきた写真家の言葉からは、色んな複雑なニュアンスが伝わってきます。

桜井市の聖林寺・十一面観音さんに関して、「ふと、これは三輪山の神 大物主の化身ではないか、と思えて仕方がなかった。」こんな感想が出てくるのも面白いですね。

それ以前に、東院堂・聖観音像の光背や飾りは「忍冬唐草文」、金銅・薬師三尊像は「宝相華唐草文」となっているとか。制作年は10年も違わず、印象もとても似ている仏さまたちですが、聖観音像の方が明らかに古い文様を残しているんだそうです。こんなことにも気づかないんですから、やっぱりこういう本を読んでおくべきですよね(笑)

なお、土門拳さんといえば「雪の室生寺」のエピソードが有名です。雪の室生寺の風景が撮りたかったのにチャンスに恵まれず、昭和53年の冬、雪を待って室生の山中にこもる決意をする。室生寺門前の橋本屋さんにもそんなに長逗留できないため、御所市の病院に入院して待っていたところ、東大寺のお水取りが終わった頃、ようやくそのチャンスが巡ってきて…というような流れです。

実は、本書はその撮影に成功する前の写真までしか収録されていないため、先生が撮影した雪の室生寺の写真は掲載されていません(笑)。しかし、その前後を描いた文章が収録されていて、この事情が伝わってきて面白かったですね。さらに、「室生寺ひとむかし」というエッセイでは、いつまでも変わらないように見えた室生の里の地元の人々のことに触れてあって、ちょっと切ない作品になっています。

本文も写真も面白く読めますが、巻末に掲載されている土門たみ夫人による語り下ろし回想記も興味深かったです。最後まで一気に読める、そしてこれから何度も読み返すことになるであろう一冊ですね。


【土門拳 古寺を訪ねて―奈良西ノ京から室生へ (小学館文庫)】の関連記事

  • 『鳥居大図鑑』~全国57の美しい鳥居、変わった鳥居を紹介。観察・分類することの楽しさよ!~
  • 『教えて、お坊さん! 「さとり」ってなんですか』~キーワードは「さとり」。仏教の教えの奥深さと包容力が感じられる良書~
  • 『源信さん 浄土教の祖』~当麻出身の源信の絵詞伝が絵本に。奈良博の特別展の予習用にいいかも~
  • 『天平期の僧侶と天皇―僧道鏡試論』~悪評が伝わる「道鏡」について、鑑真や良弁、行基ら奈良仏教史から考察した一冊~
  • 『百寺巡礼 第一巻 奈良 (講談社文庫)』~作家・五木寛之さんの名シリーズ。奈良の古刹で色んな思いを馳せられます~
  • 『ボクは坊さん。』~映画化された若いお坊さんのエッセイ本。初々しく新鮮。良書です!~
  • 『身体と心が美しくなる禅の作法―だれでもできる一日一禅』~初心者向けの座禅入門本。栗山千明さんが登場したり、わかりやすく柔らかい内容です~
  • 『アマテラス―最高神の知られざる秘史 (学研新書)』~古代から近代まで、最高神アマテラス祀られ方や性格の変貌ぶりを追った一冊。面白い!~
  • 『霊能動物館』~社寺に祀られる動物たちをオカルト的・民俗学的に考察。知らない歴史がいっぱいで面白い!~
  • 『京都・奈良ご朱印めぐり旅乙女の寺社案内』~御朱印の掲載点数は少なめですが、参拝ガイドとして便利。お寺巡り初心者さんに役立つ一冊~
  • 『体を使って心をおさめる 修験道入門 (集英社新書)』~金峯山寺・田中執行長が「修験道」を分かりやすく解説した一冊。一気に読了しました!~
  • 『山伏ノート ~自然と人をつなぐ知恵を武器に~ (生きる技術! 叢書)』~山伏になって聖なる山へ入ることで見つけたこと、感じたこと。色々と考えさせられます~


  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ