2012-04-09
大津絵―日本民芸館所蔵
江戸時代の大津市の名産品。素朴な民俗絵画の世界に感嘆!
日本民藝館所蔵の「大津絵(おおつえ)」を収録した見応えのある画集。大津絵とは、江戸時代初期から滋賀県大津市の名産品として描かれてきた民俗絵画で、東海道を行き交う旅人たちの土産物として、または護符として親しまれていました。無名の作家が決まった画題を描くことが多いため、美術品とは認められない時代が長かったところ、柳宗悦によって「民画」として再評価されたそうです。滋賀に行くたびに目にしていたため、ずっと気になっていたのですが、この本で体系が俯瞰できて面白かったです。
大津絵は、時代によって初期は仏画、後に世俗画へと移行していきます。本書では、3つの時代に分けて作品が掲載されています。それぞれ解説は短めで作品を多めに見せてくれているので、世界観が分かりやすくていいですね。
最も有名な画題は、お布施を求めて歩く赤い顔の鬼を描いた「鬼の念仏」でしょう。右手に撞木、左手に奉加帳、首から鉦(かね)をぶら下げた、ちょっと異様な姿です。人の心の鬼が外見にまで現れた、という意味合いなのか、大津絵には鬼は欠かせない題材となっています。面白いのは、画題が決まっているため、同じ構図で様々な人間が描いていること。ほんの少しずつ違うんですが、現代の美術品などの基準から考えると不思議な感じがします。
この他にも定番の画題は数多くあり、素朴なタッチの仏画には、阿弥陀仏、青面金剛、不動明王など、世俗画には、鬼の寒念仏、藤娘、傘さす女、瓢箪鯰、鷹匠、座頭、雷公、猫と鼠、長刀弁慶、為朝などがあります。何故こんなラインナップになったのか想像もできませんが、同時代の浮世絵などとは違った、独特の進化を遂げたのでしょう。素朴で不思議な世界ですね。