供養をかたちに―歴史的石造物を訪ねて (「月刊石材」別冊シリーズ)
層塔・五輪塔・宝篋印塔・石仏など、全国30の石造物たちを紹介。渋くて興味深い世界です
日本各地の歴史ある「石塔」などを紹介する一冊。「月刊石材」という雑誌の連載記事「歴史的石造物を訪ねて」をまとめたものだとか。層塔・五輪塔・宝篋印塔、さらには石仏なども取り上げていて、私の理解できないレベルの記述も多かったですが、とても興味深い内容でした。
本書で紹介されるのは、主に鎌倉時代ごろから各地で作られた30の石造物たちです(石塔や石仏など。古墳などは入りません)。
歴史を紐解いていくと、中国・宋の時代に日本へ渡ってきた石工・伊行末や、その子孫と思われる伊行恒など、南都で活躍した石工集団が大きな役割を果たしているのだとか。伊行末の作品は、般若寺・十三重石塔が有名ですし、宇陀市・大蔵寺の層塔もそうです。さらには、東大寺法華堂(三月堂)前にある石灯籠も造立しているとか。
素人目には違いが見つけづらい石造物たちですが、順を追って紹介されるため、流れが把握しやすくなっています。
こうした石造物は、鎌倉や京都など全国的に見られますが、やはり奈良には古いものが現存していることが多いようで、本書でも以下のようなものが紹介されています。
●石塔類 -- 額安寺・宝篋印塔、般若寺・十三重石塔、奈良市の伴墓三角五輪塔と重源三角五輪塔、談山神社の摩尼輪石塔など、東大寺南大門の石獅子、黒滝村の鳳閣寺宝塔、當麻寺近くの北墓五輪塔など、
●石仏類 -- 生駒市石仏寺の阿弥陀三尊石像、仏師快慶の下図を石工が刻んだ一針薬師笠石仏
メモ代わりに、気になった点を書き出しておきます。
・東大寺南大門の石獅子(南大門の中門側)は、鎌倉時代に東大寺復興に尽力した重源の指示で作られたもの。奈良の大仏を復興した際に、運慶快慶らに脇侍の虚空蔵・如意輪観音像・四天王像などを作らせたのと同時に、同じ組み合わせで石造仏も制作させていた(現存せず)。南大門の石獅子は、当時は中門に置かれていた。宋人石工によるエキゾチックな意匠のもの。
・石造の宝塔は数多く残っているが、「多宝塔」となると五例しか残っていない。その最古のものが、大和高田市・天満神社の本殿南側にある。凝灰岩製のため欠損が激しい。鎌倉時代中期には石塔の素材は花崗岩へ移行しているため、この石塔は平安時代の可能性が高いとか
自宅から近いこともあって、葛城市・當麻寺にはよくお詣りに行っていますが、境内にもその周辺にも、貴重な石造物がたくさん存在していることを知ったりもしました。いつかこの本の内容をもとに改めて見て回りたいと思います。
内容はかなりマニアックですが、私の知らなかった世界の入口になってくれそうな一冊でした。興味がある方はぜひ!