
2011-11-19
信貴山縁起絵巻―躍動する絵に舌を巻く (アートセレクション)
まさに日本のSFの原点!国宝の絵巻物の面白さが分かります
奈良の信貴山にある「朝護孫子寺」に伝わる、国宝の絵巻物「信貴山縁起絵巻」の全てを掲載し、解説してくれるビジュアル本。実物も模写も、これまでに何度も拝見していますが、3巻構成の長い絵巻物だけに、その全てを見たことはありませんでしたので、とても面白く読めました。
信貴山縁起絵巻は、12世紀に成立しており、「伴大納言絵巻」「源氏物語絵巻」並ぶ三大絵巻とされるもの。信貴山の中興の祖とされる僧・命蓮(みょうれん)が起こした奇跡を伝える説話絵巻です。作者は誰かは分からず、18世紀に朝護孫子寺にあったという記録の前は、全くの不明なのだとか。
絵巻の中では、最初の巻にあたる「山崎長者の巻」が最も有名でしょう。金色の仏鉢に乗って米倉が空を飛び、後に大量の米俵が戻っていく様子は、躍動感があって印象に残ります。改めて本で見てみると、校倉造りの倉の描写の緻密さや、登場人物のユーモラスな表情、場面変転の際の風景画の見事さなどが、存分に伝わってきます。連続して飛ぶ米俵の描写など、この絵巻物がただ古いだけではなくかなり上手いことが、私のような素人にも分かります。
また、ストーリーは醍醐天皇の病気の治癒を加持祈祷で治し護法童子が現れる「延喜加持の巻」、命蓮の故郷・信濃から姉が訪ねてきて再開する「尼公の巻」(東大寺の大仏さまも登場します)と続きます。実物ではこれだけしっかりと細部まで見ることはできませんから、とても興味深いですね。この本を読んでから実物を見ると、より一層楽しめるでしょう。