2011-08-21
能 大和の世界 (物語の舞台を歩く)
能の発祥の地・奈良を舞台にした作品を丁寧に解説した良書
古典芸能「能」は、奈良の大和猿楽四座から生まれました。有名な観阿弥・世阿弥親子も奈良にゆかりが深く、観阿弥は川西町結崎で結崎座を率い、世阿弥もその地で生まれたと考えられているとか。後に京都へ移りますが、世阿弥60歳の時に奈良の味間(現在の田原本町)の寺院に出家しました。
世阿弥の還暦前には奈良を舞台とした作品はほとんどありませんでしたが、晩年は「井筒」「当麻」「野守」「布留」など作品を書いたそうです。この他、長男の観世元雅が「重衡」を、娘婿の金春禅竹が「玉鬘」「龍田」「三輪」「春日龍神」など、多数の大和物が書かれています。
こうした大和物の作品を、その土地ごとに分けて解説しているのが本書です。名作の舞台巡りのような体でありながら、奈良坂の辺りに住んでいた奈良坂非人(芸能者の身分も低く見られていた)や、中世の南都律宗、猿沢池と南円堂を補陀落山と補陀落の海に見立てていたことなど(「采女」の話も腑に落ちました)、様々な角度から考察しています。私は室町時代ごろの資料はほとんど読んでこなかったので、いずれもとても興味深い内容でした。
個人的に、山の辺の道の玄賓庵に行った時に、ここは謡曲「三輪」の舞台になった場所です、と解説があったにもかかわらず、その話を全く知らずに悔しい思いをしていましたので、それらが把握できて嬉しいですね。能の知識が全く無いと理解しづらいかもしれませんが、ストーリーだけ読んでも興味深いです。興味のある方はぜひ!