歴史のなかの石造物: 人間・死者・神仏をつなぐ
石仏や五輪塔などが造立された歴史的背景について解説。やや難解でした
各地に残された層塔や石仏、五輪塔などの石造物。何らかの祈りや思いが込められて造立されたものであることは間違いありませんが、その背景までは想像することはありません。本書では、石造物造立に至るさまざまな歴史的背景について、分かりやすい文章で語られています。
私のレベルではすべて理解できたとはいえませんが、前半は奈良の石造物に関する記述が中心のため、興味深く読了しました。
説明文:「中世に造られ今も各地に残る、層塔・石仏・五輪塔…。当時の人々は“石”にどんな思いを込めたのか。文献資料を駆使し、石造物造立の背景にあった人間と異界・死者・神仏が複雑に織り成す濃厚で複雑なストーリーを描く。」
本書は、冒頭に記されたエピソードからとても興味深いものとなっています。13世紀、九条道家の兄・慶政(けいせい)が、家に仕える者の21歳の妻に取り付いた、比良山の大天狗(愛宕山の太郎坊と並び称される「次郎坊」)から聞いた話を紹介しています。
まず、天狗をなだめるための提案として、お社を建て官位をさずけることを提案したが拒否されてしまいます。そして、内容をこのように変更しました。「高さ一丈六尺(約480cm)の十三重石塔を建立しましょう。石塔は(腐らないので)不朽の功徳だからです。禽獣(とりやけもの)ですら、その傍に近づくだけで煩悩や罪や穢れを祓うことができます。」大天狗もこれを受け入れ、この塔は実際に建立されます(場所は不明)。
天狗との約束で塔を造立するのは異例なのかもしれませんが、こんな記録もあるんですね。
このエピソードに登場する慶政は、中国で石塔を見てきた人物で、熱心な聖徳太子信仰の持ち主だったため、当時の法隆寺修造事業にもかかわりました。親しかった明恵上人のための宝篋印塔を造立したともいわれているそうです。
第1章 慶政と石塔(明日香村・於美阿志神社の石塔などを参考にした)
第2章 貞慶と石造物(快慶作とされる一針薬師笠石仏、達磨寺の再興など)
第3章 京極氏信と三基の宝篋印塔
第4章 凝然と瀬戸内の石造物
前半は中世の達磨寺再興のエピソードなども丹念に語られています。石造物の銘文や古文書などを読み解いて、その時代背景を読み解く試みはとてもスリリングですらあります。確定された事実とは言い切れないものの、これまで名前も知らなかったような中世の工人の業績がつながっていくようで、物語を読むように楽しめました。
テーマがテーマですから、決して読みやすいものではありませんが、興味のある方はぜひ!