
歴史のなかの大地動乱――奈良・平安の地震と天皇 (岩波新書)
奈良時代に頻発した地震は宮廷にどのような影響を与えたのか?良書です!
奈良時代から平安時代にかけてに相次いだ、日本列島を襲った地震や噴火、津波などの自然災害に、天皇や民衆はどう感じ、どう対処したのか。これまであまり見られなかったアングルから古代を俯瞰し、とても興味深い内容でした。
奈良・平安の世を襲った大地の動乱。それは、地震活動期にある現在の日本列島を彷彿させる。貞観津波、富士山噴火、東海・東南海地震、阿蘇山噴火……。相次ぐ自然の災厄に、時の天皇は何を見たか。未曾有の危機を、人びとはどう乗り越えようとしたか。地震噴火と日本人との関わりを考える、歴史学からの新しい試み。
「内容紹介」より
のどかに見える奈良時代は、政治闘争が絶えず、天皇家や古代豪族たちが暗闘を繰り返した時代です。そうした人間同士の争いは歴史書でよく観られますが、その動きに大きな影響を与えているのは天変地異でしょう。
七世紀末ごろから、アジアで大規模な地震が頻発したそうです。最初の一撃となったのは、664年に新羅を襲ったマグニチュード6.3の地震でした。これは日本が唐・新羅の連合軍と戦って大敗を喫した「白村江の戦い」の翌年のことでした。
これ以来、678年の筑紫地震、684年の南海地震と伊豆神津島の大噴火、701年の丹後地震、715年の遠江・三河地震、734年の河内・大和地震など、大規模な自然災害が続きます。
災害による直接的な被害も大きいのですが、当時の宮廷人たちは道教的な思想も持ち合わせていて、「天は王の不徳を正すために天変地異を起こす」という考え方もありました。こうした思想は、長屋王が政治を司った時代に強く観られ、元正天皇は地震の後に「政治の問題点があれば積極的に上申せよ」との詔を発しています。
また、恨みを持って亡くなった政敵が怨霊と化して災害を起こすということも恐れられており、災害が起こるたびに天皇は自らの非を悔いていたのです。単なる宮廷内の人間ドラマだけではなく、こうした考えを持っていたことを覚えておくと、まったく違った印象になるでしょう。
本書では、史書などから災害の歴史を丹念に掘り起こし、最終章では、地震神が災いを防ぐ地主神に、雷神は水神となり治水を司る神に変容していく様子なども語られています。
これまでとは違った視点で古代史をみられるきっかけになってくれた良書でした!