2014-06-22

南朝の真実: 忠臣という幻想 (歴史文化ライブラリー)

賛美でも否定でもなく「忠臣ぞろいの南朝」を再検討した良書。分かりやすく面白かったです!

「不忠の足利氏、忠臣ぞろいの南朝」。弱体化した南朝を何年も生き長らえさせた、内紛続きの室町幕府、戦力で劣りながらも忠臣たちが少数で守り通した南朝。そんな南北朝時代のイメージを再検討し、単なる賛美でも否定でもなく、南朝の真実に切り込んだ一冊です。

忠臣の鑑とされた楠木正成ですら、決して後醍醐天皇の方針すべてに従っていたのではなく、意見すべきところは物申していますし、その息子・楠木正儀に至っては、一時は北朝へ下り、また南朝方へ復帰したりと、決して一枚岩であったわけではありません。複雑怪奇な南北朝時代の新しいイメージを語った良書ですね。


説明文:「「不忠の足利氏、忠臣ぞろいの南朝」―こうした歴史観は正しいのか。皇統が二つにわかれた南北朝時代の、皇位や政策をめぐって頻発した内乱と、複雑に絡みあう人物相関を詳述。本当の忠臣は誰か、新たな視点で描く。」


私自身は、最近になってこの時代の本を読み始めたばかりで、それほど詳しいわけではありませんでした。このため、行き過ぎた皇国史観などとはほぼ無縁で、南朝の諸将が必要以上に持ち上げられている事実もほとんど知らなかったのです。

冷静な目で見れば、北朝南朝幕府のすべてが入り乱れての大乱戦であったのは明らかですから、正直なところ、本書の内容にはそれほど驚きも反発もありませんでした。分かりやすく冷静な視点から描かれている、優れた内容だと思います。

本書では、この時代のさまざまな対立を軸に時代を読み解いています。

後醍醐天皇・足利尊氏と大塔宮護良親王の争いに始まり。大覚寺統の内部の争い、鎌倉幕府再興計画、北陸王朝・関東王朝樹立の動き、講和か抗戦かをめぐる争い、南朝天皇の兄弟げんかなど、枚挙にいとまがありません。

北朝方の内部分裂によって、対立軸が南朝方へ身を寄せるという一連の流れが弱体化を続けた南朝を生き長らえさせたのは間違いありませんが、その南朝内部でさえ、たくさんの抗争があり、北朝へ寝返っています。

最終的に南北朝の合一がなされた際、吉野から後亀山天皇が大覚寺へ向かい、三種の神器を後小松天皇へ渡し、譲国の儀式を行いました。この時、すでに後亀山天皇の行列は60名にも満たないわびしいものだったとか。

南朝方に関する資料は少ないそうですが、次第に研究が進み、少しずついろんな事実が判明してきているようです。楠木正成や北畠顕家らの初期の忠臣たちにしても、「謀反を起こすまでに至らなかっただけ」という見方すらできるとか。資料などを検証していくと、後醍醐天皇をもっとも崇拝し、その政治思想にもっとも近いのは、不倶戴天の敵となってしまった足利尊氏なのかもしれません。

南北朝時代は、敵味方が入り乱れての乱戦模様で、とても把握しづらい時代です。しかし、本書のような分かりやすい研究が進むと、その面白さがより広く伝わるでしょう。私のような南朝方の肩を持ちたい人間にとっても、とても面白い内容でした。興味がある方はぜひ手にとってみてください。


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