地方にこもる若者たち 都会と田舎の間に出現した新しい社会 (朝日新書)
現代の「地方都市」の若者の意識を分析した一冊。私の時代ともまた違った若者像があります
岡山で行われた若者世代への詳細な聞き取り調査をもとに、現代の「地方都市」の住人の意識を解析したもの。後半はBOOWYやB'z、ミスチルなどのJ-POPの歌詞から、その世代の特徴を分析するという、2段構成になっています。
「ヤンキー化する日本」など、最近の地方の若者のライフスタイルに注目した本が話題のようですが、それと同列のものとして読んでみました。私自身も地方都市に暮らす人間ですが、世代による意識の大きな違いに驚かされますね。とても興味深かったです。
説明文:「若者はいつから東京を目指さなくなったのか?田舎と東京の間に出現した地方都市という存在の魅力とは?若者が現在と未来に感じる満足と不安とは?『搾取される若者たち』で鮮烈デビューを果たした気鋭の社会学者が甲南大学准教授となり、地方から若者を捉え直した新しい日本論。岡山における「社会調査」(現在篇)、BOOWY、B'z、ミスチル、KICK THE CAN CREWなどのJ-POPから独自分析した「若者と地元の関係の変遷」(歴史篇)、そして「新しい公共性の出現」(未来篇)などで現代日本を切り取る意欲作。」
本書の前半は、2011年に岡山県倉敷市で行われた意識調査をもとにしています。典型的な現代の地方都市の若者像は以下のようなものなのかもしれません。
モータライゼーションが急速に進み、全国の中小都市にはイオンモール的なものが登場したことによって、社会が均一化しています。「休日ごとにドライブがてら1時間以上もかけて商業施設へやって来て、その中で一日を過ごす」そんなライフスタイルが定着してきているのだとか。
人間関係では、家族関係・友人関係が濃密で、地域社会との関わりが希薄。収入が減っているため親元から離れられず、必然的に同居を余儀なくされています。かといって、古い世代のように現在の親たちは高圧的ではなく、友人のような関係であったりするとか。親世代の以前のように経済的に安定していないこともあって、絶対的な権力者ではあり得なくなっています。
また、若者たちの中には「商店街で買い物する」という選択肢はありません。顔見知りの多い商店街という空間は、ややこしい人(=ノイズ)に合う可能性の高い、居心地の悪い場であり、ショッピングセンターの発展によりノイズからも自由になって、地方都市での生活がより快適になっているのです。
田舎産まれの私などは大都市に憧れて移住したタイプですし、地方都市の若者は今でもそんなもんだと思い込んでしまいがちですが、事情は大きく違っているんですね。現代の地方を表す造語「ファスト風土」なんて言葉も登場し、私たちが均一的で味気ないと感じてしまうロードサイドの風景を懐かしんだりするのだとか。こうした考え方があるということを知っただけでも、本書を読んだ価値はあったと思います。
後半の「Jポップを通して見る若者の変容」では、反発の時代「BOOWY」、努力の時代「B'z」、関係性の時代「Mr. Children」、地元の時代「キック・ザ・カン・クルー」として、それぞれの年代を代表するアーティストの歌詞から、その地元感を俯瞰しています。「生まれ育った田舎=逃げ出したい」なんて単純な構図じゃないんですね。これもなかなか興味深い考察でした。
どこかで読んだ記事ですが、今の若者たちが尾崎豊さんの歌を聞いて「理解できない」といった反応を示すこともあるというのも、何となく腑に落ちる感じがありますね。
世間の事情には特に疎い私ですが、身の回りではこんな方たちが暮らしているのかと思うと、ちょっと意識が変わったような気がします。なかなか刺激的な一冊でした。