円空を旅する (産経新聞社の本)
全国で12万体の仏像を刻んだ円空の足跡を追った一冊。新聞連載のまとめで読みやすいです
江戸時代に全国を行脚し、12万体もの仏像を刻んだ「円空」の足跡を追った一冊。2003年から産経新聞大阪の夕刊で連載されていた内容を、2005年に単行本化したものです。
タイトルの通り、円空作の仏像が遺っている土地を、東北・北海道・東海・奈良・関東・飛騨と順番に追っており、その数は34箇所。一つの記事あたり3ページ程度で、画像も小さめ(そしてモノクロ)のため、やや物足りない感はありますが、とても読みやすいですね。円空が行脚した順に、人生を終えるまでを淡々と追っています。
説明文:「●足跡を追う 生涯12万体の仏像を刻む大悲願をかかげ、造仏行脚を続けた江戸時代の僧・円空に惹かれた筆者が、その足跡を追って北海道の洞窟から東北、関東、岐阜、愛知県内などの寺院や神社、奈良・大峯山中などを尋ね、円空の実相に迫る。筆者は産経新聞大阪本社文化部の記者。任地でナマの円空仏に接し、円空仏のとりこになり、産経新聞大阪夕刊で33回にわたり「円空を旅する」を連載。本書はこれに加筆した。さらに円空の研究を進めている哲学者・梅原猛氏の「円空と私」、円空学会の長谷川公茂理事長の「円空歌集からみた円空の思想と信仰」を掲載。
●異相の仏たち ノミ跡も荒々しい円空仏は、岐阜、愛知を中心に北海道から東北、関東など現在、5200体以上が発見されている。大木から仏像を刻んだときに出た木屑、木っ端をも刻んだ円空。阿弥陀如来、薬師如来、十二神将、不動明王、護法神像などいずれも荒削りなのに繊細、ぶっきらぼうなのに神経が行き届いている仏たち。「どこかやさしさが漂い、見ているだけで心がいやされていくような気がした」(筆者あとがきから)ように、その滋味あふれるほほ笑みに癒され、惹きつけられるファンは多い。本書はカラー口絵をはじめ、魅力ある円空仏の写真を多数掲載している。」
文中の解説も、梅原猛さんや長谷川公茂さんが登場し、なかなか丁寧に作ってある印象ですね。円空本の中では、長谷川さんのご著書で、美しい画像も豊富な『円空 微笑みの謎 (ビジュアル選書)』(書評はこちら)がお勧めですが、こうした切り口のものも面白いです。
この系統の本は、どうしても学術的で難解な内容になりがちですが、本書は誰にでも読みやすくまとまっている貴重な一冊ですね。必読とまでは言いませんが、目を通しておく価値のある内容でした。