香薬師像の右手 失われたみほとけの行方
所在不明の新薬師寺像の行方を追ったドキュメント。読み応えあり!
昭和18年に盗難にあい、現在も所在不明となっている、奈良市・新薬師寺「香薬師如来立像」(旧国宝)。その所在をご住職とともに丹念に追い、ついにその右手を発見するまでのドキュメント。
香薬師像は、やわらかな微笑をたたえた白鳳仏の傑作です。現在、新薬師寺では本物から型取りされた複製を拝見できますが、本物の行方は未だに不明です。
筆者さんの粘り強い調査により、盗難時に欠落していた右手だけでも見つかったことは、驚くべきニュースでした。その模様が丹念に記されていて、手に汗を握るような展開に最後まで引き込まれました!
説明文:「奈良・新薬師寺の香薬師立像は、旧国宝に指定され、白鳳の最高傑作と言われていた美仏。あまりの美しさから「金無垢でできている」という噂がたち、明治時代に2度盗まれたが、手足を切られ、純金製でないことが分かると2度とも道端に捨てられているのが発見され、寺に戻った。そして昭和18年、3回目の盗難に遭う。「国宝香薬師盗難事件」は、戦時中の新聞にも報じられ、仏像ファンたちに大きな衝撃を与えた。2度盗まれて戻ってきた像だったが、今回ばかりは発見されず、未だ行方が分からない。
この行方不明の香薬師を見つけ出そうと、元産経新聞の記者である著者が取材を開始。新薬師寺住職の全面的な協力を得た調査では、まるでミステリー小説を地で行くような展開に。その結果、衝撃の新事実が発覚。ついに、「本物の右手」の存在をつかむ……。
美術史的にも非常に意義のある大発見までの経緯をまとめた、衝撃のノンフィクション。 」
失われた香薬師像を探すにあたって、元新聞記者である筆者さんは写真資料をあたったり、実物から作られた模造品(2系統あったとか)などの行方を追ったり、できる限りの調査を進めます。当時のご住職がお持ちだった資料などもあたりますが、まるで雲をつかむかのよう。どのルートもなかなか進捗しません。
しかし、証言を集めていくうちに、その当時、香薬師像の右手だけが本体とは別に見つかっていたことが判明します。盗難の際の衝撃でもげてしまったと思われるもので、警察で証拠物件として扱われていたものを見たという情報に行き当たります。
とはいえ、この右手をたどるルートもぷっつりと途絶え、膠着状態に戻ったある日、新たな情報が見つかり……。
と、質のいいミステリーのような展開となりますので、感想文でネタバレしないようにこのくらいにしておきますね(笑)
私のような白鳳仏が大好きで、「いつの日か本物の香薬師像にお会いしたい」と願い続けた者にとっては、その丹念な調査ぶりに感動し、痛々しい事件に眉をひそめ、最初から最後まで没頭しっぱなしでした。
上質なドキュメンタリーとして読める一冊ですので、仏像好きな方はもちろん、幅広い方に手にとって欲しいですね。お勧めです!