
美都で恋めぐり
『恋都の狐さん』で奈良を描いた北夏輝さんの2作目。三都を舞台にした独特な作品です
メフィスト賞受賞作『恋都の狐さん』(書評)で、奈良の何気ない風景を丁寧に描ききった作家・北夏輝さんの2作目です。
前作は奈良が舞台でしたが、今回は京都・大阪・奈良の「三都」で繰り広げられる恋とクイズ(?)の、不思議なお話です。主人公は普通の女の子ですが、「女装」の美男子や風変わりな書道家の先生など、クセのある方たちが登場してきてストーリーが進んでいきます。
説明文:「彼氏と同じ大学を目指しながらも、受験に失敗し、従叔父のいる大阪の大学に入ることになった友恵。挨拶へ赴くと、従叔父は「黒衣」と呼ばれ、大学教授の「殿下」、女装の大学生「サカイ」と、たこ焼きパーティをしていた。その3人らと大阪ミナミ、京都・東寺の弘法市などを巡った友恵は、美男子で頭脳明晰だが、やけに無愛想なサカイのことが気になっていく…。 」
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、デビュー作に引き続き、とにかく不思議な読後感が残る作品ですね。
個人的に、この方の最大の魅力だと思うのが、関西を「不思議の国」的な目線で描いていることです。この作品の主人公は、関西以外の土地から大学進学とともに引っ越してきた設定なので、「一家に一台たこ焼き器がある」「京都・東寺の境内で弘法市が開かれる」など、関西の色んなことを物珍しく、新鮮に体験しています(春日大社のおん祭のシーンもあります)。私も急に関西へ移住したクチですから、この驚きがリアルに感じられますし、とても共感できます。
作者さんは大阪生まれ(現在はおそらく奈良女の学生さん)ですから、ここまで「よそ者目線」があるのはすごいと思います。ちょっとした関西観光気分が味わえますね。
その一方で、人物の心の動きなどの描き方はやや物足りなさも感じられます。個性的な登場人物のキャラに頼ってしまっている感もありますね。
私はそれほど小説を読んでいないので、他の作品とは比較できませんが、どことなく描写があっさり目のラノベ的な印象があります。とても分かりやすく、ストーリーを追いやすいんですが、やや食い足りなさも感じますね。大阪の町並みなどをあれだけ活き活きと描けるのですから、いつかしつこいくらいの心理描写にもチャレンジして欲しいと思ったりもしました。
本作を読みながら思っていたのですが、主人公たちは大学生ですが、いずれもいわゆる理系の学部に通っています。お話の中にも簡単な数学クイズのようなものも出題されます。作者さんも理系な方なんだろうなと想像していたら、ブログを拝見したらまさにその通りのようです。作品のテイストからもどことなくそんな雰囲気を感じます。
なかなか捉えどころのない、ちょっと風変わりな作品ですから、読み手によって評価は大きく変わるでしょう。個人的には、関西の人や町の描写だけでも十分にニヤニヤできました。前作ともども、ぜひ手にとってみてください!
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