怨霊になった天皇
天皇家の闇である「怨霊」と化した者たちについて描いた一冊。淡々として面白かったです!
旧皇族・竹田家に生まれた筆者による、天皇家の闇でもある「怨霊」と化した者たちについて描いた一冊。決してオカルトではなく、煽るような口調でもなく、淡々と歴史を紐解いており、とても面白かったです!
説明文:「天皇は神にもなるが、怨霊にもなる!
125代にわたる世界最古の王室、天皇家。御簾の奥で平穏に続いてきたように思われるが、実は権力闘争や政争、謀略など壮絶な人間ドラマが絶えなかった。暗殺、島流し、自殺、呪殺、憤死など非業の死を遂げた天皇は意外と多い。その中には「史上最恐の大魔王」と恐れられた崇徳天皇など「怨霊」になったと信じられた天皇が何人もいる。皇室、日本人はこれら怨霊を祀り鎮めて「神」にし、その霊力をこの世に活かそうと考えてきた。ここに他国にはない、王家と国民の近しい関係、日本の国柄が見て取れる。明治天皇の玄孫である竹田氏が神話の時代から現代まで、崇徳天皇を中心に独特の視点で「天皇家の怨霊史」をひもとく。天皇は神にもなるが、怨霊にもなる! 」
本書によると、世界最古である日本の皇室では、これまで暗殺・憤死などで「怨霊になった天皇」が4人、皇族が7人いたそうです。その中でも、最恐の怨霊とされたのが、崇徳天皇(大河ドラマ「平清盛」で井浦新さんが演じていた方です)。鳥羽天皇の子息でありながら、実際にはその父・白河天皇のご落胤であったとされ、生まれる段から悲劇的ですね。
後に起こった保元の乱で、兄弟の後白河天皇と争い、淡路島へ流されます。そこで恨みを募らせ、「日本国の大悪魔と成らん」と叫びながら、自らの舌の先を食いちぎり、その血で五部大乗経に呪いの言葉を書き記して憤死した…というのですから、壮絶です。後日の創作も多分に含まれているにしても、迷信深いこの時代の人々が恐れるのは当然だったでしょう。
そんな崇徳天皇の呪いは、後々まで信じられていました。死後700年後、幕末の動乱の時代の孝明天皇は、この騒動は崇徳天皇の祟りだと考えており、京都へ亡骸を移すなど鎮護の儀式を行ない、その最中に突然死してしまいます。何百年にもわたって「天皇家が権力を手放してしまったのは崇徳天皇の祟りだ」と考えられていたというのですから、もはや迷信なんてレベルではなかったのでしょう。
日本の怨霊の歴史は、初発がイザナミノミコト、皇族では長屋王。奈良時代末期には井上内親王の怨霊が恐れられます。平安時代に入ると、早良親王が、そして菅原道真が怨霊と化し、崇徳天皇へと続いていきます。亡くなった者が怨霊と化すには、本人が恨みを持っていたのと同時に、生き残った者たちに罪の意識があることが必須ですから、いかに政争と粛清が続いたのかが分かります。
菅原道真を左遷した中心人物・藤原時平は、その怨霊に殺されたとされています。僧侶が時平の病気平癒を祈って加持祈祷を行なっていると、時平の両耳から二匹の青龍が現れ、菅原道真の声で「加持祈祷を止めさせよ」と命じ、それと同時に時平は絶命したというエピソードも遺されているとか。こんな話を聞いたら、そりゃ恐ろしくもなりますよね。
そんな怨霊に翻弄される人々の姿を見て、ただの迷信だと言い切るのは簡単ですが、それ以上の重みのある何かが感じられます。現代では、怨霊化しそうな貴人への対処法(とにかく憤死させないこと、など)も確立されてきて、そんな心配もなくなっていますが、近代までこんな思想は生々しく残っていた事実は知っておいていいかもしれませんね。
なお、私は単行本で読みましたが、文庫版も登場していますのでこちらもどうぞ。