2013-01-10

天皇陵の誕生(祥伝社新書268)

「天皇陵」の成り立ちを歴史的、社会学的な観点からアプローチした興味深い一冊

宮内庁の管理下に置かれ、調査すら行われていない天皇陵。そもそもの比定からして疑問が呈されている(時代考証などから被葬者が別人と考えられるなど)ものも多く、現在の管理制度では不明なことばかりです。そんな天皇陵をめぐっては、考古学的な観点から発掘調査を望む声も少なくありませんが、なかなか実現しません。

本書では、考古学的なアプローチではなく、社会学的な観点から天皇陵の成り立ちを考察しています。専門的な描写も少なくありませんが、とても読みやすい内容で楽しく読めました。

説明文:「天皇陵をめぐっては、埋葬された被葬者の真偽をめぐる議論が絶えない。それどころか、実在しなかったとされる天皇、即位したかどうかわからない天皇、もとより海中に没したはずの天皇の陵墓まで指定されている。そしてそれらの陵墓は宮内省の管轄で、一切の学術調査や発掘が許されていない。 では、現在の天皇陵は、誰が、いつ、何を根拠に、どのような方法で決定したのだろうか。本書は、考古学的なアプローチとは別に、近世・近代史の視点から、天皇陵とは何か、という問題に迫る。」


第一章は「天皇陵は本物か─証明法の謎」。現在の古墳にどの天皇が埋葬されているのかを比定していく方法を説明し、その疑問点を述べています。その流れで、第二章では江戸時代の天皇陵研究家として有名な蒲生君平の「山陵志」について考察し、それが当時どのように扱われたのかを見ています。

ここまでは基本的な説明ですが、本書がユニークなのはここから。幕末に築かれた神武天皇陵の決定方法と、そこで天皇陵を奉じていながら橿原神宮と軋轢をおこした奥野陣七という人物を紹介しています。彼は橿原神宮近くで、政治団体と観光ガイドの中間のような事業を行ない、神武天皇陵が人々から崇められる存在となることに尽力しました。不思議な人間模様が垣間見れます。

さらに、明治天皇陵を京都にするか東京にするかの騒動、海中に沈んだはずの安徳天皇や、即位が確定していない長慶天皇の御陵の選定など、天皇陵を取り巻く興味深い話が続きます。

考古学的な視点から天皇陵を再考するのも面白いものですが、こうしたアングルから見るのも人間臭くていいですね。天皇陵というものが、ずっと人々から聖域として崇められてきたように錯覚しますが、ほとんど顧みられなかった時代が続いていたのです。そんなことを再認識できる一冊でした。


【天皇陵の誕生(祥伝社新書268)】の関連記事

  • 『偽書「東日流外三郡誌」事件 (新人物文庫)』~戦後最大の「偽書」事件を追ったルポルタージュ。推理小説より面白い!~
  • 『承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)』~鎌倉時代の政治や社会について、素人にも分かりやすく解説した良書!~
  • 『東大寺のなりたち (岩波新書) 』~東大寺前史からの歴史を平易に解説。知らなかった事柄も多く、もう一度読み直したい良書です!~
  • 『天誅組―その道を巡る (京阪奈新書)』~奈良県内を中心に「天誅組」ゆかりの地をまとめたディープなガイドブック~
  • 『沈黙する伝承―川上村における南朝皇胤追慕 (あをによし文庫)』~資料を読み解き「後南朝」の人々がよりリアルに。読み応えのある良書です!~
  • 『遣唐使 阿倍仲麻呂の夢 (角川選書)』~阿倍仲麻呂の生涯に、万葉学者・上野先生が真っ向から挑んだ力作!~
  • 『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)』~ややこしい京都の大乱を扱いながら、大和の描写も多く読み応えあり!~
  • 『歴史のなかの大地動乱――奈良・平安の地震と天皇 (岩波新書)』~奈良時代に頻発した地震は宮廷にどのような影響を与えたのか?良書です!~
  • 『六国史―日本書紀に始まる古代の「正史」 (中公新書)』~6つの国史についてエピソードとともに分かりやすく解説。良書!~
  • 『怨霊とは何か - 菅原道真・平将門・崇徳院 (中公新書)』~中世の人々にとって怨霊とはどういう存在だったのかをわかりやすく~
  • 『寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)』~公家と武士に匹敵する力を持った中世の寺社。その成立過程を解説した良書~
  • 『正倉院文書の世界―よみがえる天平の時代 (中公新書)』~行政から写経所の衣食住まで。正倉院文書をわかりやすく解説した良書~


  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ