
ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)
都会のマンションでの「植物生活」エッセイ。読後は必ず鉢植えが欲しくなりますよ!
いとうせいこう氏が「ベランダ園芸」について書いた異色の一冊。不規則な生活を続ける独り者の自由業者が、マンションの出窓やベランダを愛する植物で埋め尽くし、花が咲いては喜び、枯れたといっては落ち込み、憧れの蓮を育成に何度もチャレンジしながら一度も成功せず…という、ベランダー(ガーデナーのベランダ版)の悲哀を描いたエッセイです。
1996~98年の園芸遍歴をウェブ連載したものが出版され、後には文庫化。知らないところで「第15回講談社エッセイ賞」を受賞していたとか!渋いテーマの気軽な内容だけにちょっと驚きですw
紹介文:「庭のない都会暮らしを選び、ベランダで花を育てる「ベランダー」。そのとりあえずの掟は…隣のベランダに土を掃き出すなかれ、隙間家具より隙間鉢、水さえやっときゃなんとかなる、狭さは知恵の泉なり…。ある日ふと植物の暮らしにハマッた著者の、いい加減なような熱心なような、「ガーデナー」とはひと味違う、愛と屈折に満ちた「植物生活」の全記録。第15回講談社エッセイ賞。」
「花が咲く植物好き」のせいこうさんは、目に付く植物の種や球根、鉢植えなどを買ってきては、一人暮らしの部屋のベランダや出窓、果てはトイレまでを緑で埋め尽くしていきます。素人が条件の悪いところで育てるのですから、大抵は上手く育たず、花を落としたら二度と開花しなかったり、いつの間にか消えるように無くなったり、伸びすぎたものを泣く泣く処分したりします。大きな庭を持てない一般的な室内型の園芸好きであれば、誰もが共感できるでしょう。
冒頭に、「ベランダー とりあえずの十の掟」というものが挙げてありますので、一部を紹介しておきます。「いい加減に愛したい」「枯れるのは置場所のせいだと信じるべし」「水さえやっときゃなんとかなる」「隙間家具より隙間鉢」「狭さは知恵の泉なる」など。どれも納得ですね!
私(=花より葉っぱの観葉植物派)は、あまりに面白くて、一気に読了し、すぐに鉢植えたちに水と肥料を与えたほどでした!この本を読んだら、すぐに近所の花屋さんへ行って鉢植えの一つや二つを買ってきたくなりますので、心して読んでください!
なお、個人的に嬉しかったのは、前書きにもあるように、このエッセイはチェコの小説家で、こよなく園芸を愛したカレル・チャペック氏の『園芸家12カ月 (中公文庫)』に触発されて書き始められたこと。私もこの本の大ファンですから、せいこうさんとの小さな共通点が見つかったようで嬉しかったです。時代もシチュエーションも違いますが、園芸に興味がある方はもちろん、その滑稽な姿を見るだけでも面白いですので、こちらも合わせてどうぞ!