
園芸家12カ月 (中公文庫)
園芸家の生態とは?春になるたびに読み返したくなります
チェコの作家カレル・チャペックが、趣味の「園芸」について書いた小品。1930年くらいの作品ですが、春の到来、穏やかな晴天、適度な降雨、ナメクジがやって来ないことなど、土いじりが好きな人間の願うことは、今も昔も、どこの国でも変わりません。
作者は、自宅の庭を花の咲く品種で埋め尽くしたいと願う、素人の園芸家です。野菜なんてものは栽培しませんし(その理由は別の害虫が寄ってくるから)、室内園芸なども考えません。自分の庭を自分が目指す美しい状態に保つこと。それだけのために、早起きしては土をいじり、暑い日差しの下で思った場所に移植をし、夕暮れまで草抜きをするのです。もちろん、それが他人から奇異の目で見られることも十分に知っています。そんな園芸家の姿を、古びた言葉ですが「ペーソス」を込めた文章で「ユーモラス」に描いています。
写真も掲載されていませんし、私のような草花に疎い人間には登場する花の名前など何一つ分かりません。全く園芸の参考書にはならないシロモノです。作者が暮らしていたチェコの首都プラハは、日本よりはだいぶ寒い土地です。そんな遥かな国の、第一次大戦が終わってナチスが進行してくる前の、共産主義が強まってきていた時代のエピソードです。そんな古い時代のエッセイでありながら、今なお全く古びた印象は受けないのですからすごいことですね。
私は室内用の観葉植物を育てるのが好きなので(あと野菜も少々)、この園芸家とは土に対する姿勢は全く違います。しかし、その真摯な姿にクスリと笑いながら、とても共感を覚えるのです。特に、待ちわびた春がやって来た喜びを綴る辺りがいいですね。この本を初めて読んだのは、今からもう20年も前のことだと思いますが、春の植物の植え替え時期になると、改めてこの本が読みたくなるんです。
こうした何かに熱中している自分の姿を客観視して書いた文章は、やはり面白いものです。特に、優れた文章書きが残したエッセイは、全く時代を感じさせません。さすがに、誰にでもお勧めできる作品ではありませんが、物好きな方は春の素晴らしさを名文とともに感じてみてください!