鹿男あをによし
ドラマ化もされた、奈良が舞台の不思議なストーリー。奈良だから成立する空気感です
2007年に発売された、奈良を舞台とした不思議な小説。玉木宏さん、綾瀬はるかさん、多部未華子さんなどの豪華キャスティングでドラマ化され、奈良界隈では大きな話題となりました。私もドラマ版はずっと観ていましたが、原作を読むのは初めてです。小説としても面白いですし、ドラマと比較するだけでも楽しめますね。
「大学の研究室を追われた二十八歳の「おれ」。失意の彼は教授の勧めに従って奈良の女子高に赴任する。ほんの気休めのはずだった。英気を養って研究室に戻るはずだった。渋みをきかせた中年男の声が鹿が話しかけてくるまでは。「さあ、神無月だ―出番だよ、先生」。彼に下された謎の指令とは?古都を舞台に展開する前代未聞の救国ストーリー。」
あらすじはこんな感じ。予備知識がないと何のことやら分からないと思いますが、ちょっとしたファンタジックなストーリー展開です。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、ストーリー的に肩透かし感のある点も見受けられたりしますが、最後までそこそこヌルい感じで展開していくのがいいですね。
また、ほぼ全編で奈良が舞台になっていて、ちょっとした町並みの描写を見ていくだけでも楽しめます。東大寺の転害門から講堂跡を歩いたり、飛鳥の観光へ出かけたり、ドラマでは離れた土地から土地へ瞬間移動したかのように感じるような部分もありましたが、原作ではさすがにちゃんとロケハンしてあって、自然な流れになっていました。
またドラマとの比較になりますが、●綾瀬はるかさんが演じていた「藤原君」は妻子持ちの男 ●多部未華子さんが演じた「堀田イト」の顔つきは「野性的魚顔」と表現されている、など、ちょっとした違いを探してみるのも楽しかったです。
(私も含めて)他所の土地で生まれ育った人間にとっては、奈良という町は存在自体が不思議で、謎めいた何かを秘めているようでありながら、どこからどう見てものんびりしていますから、この作品の舞台に奈良が選ばれたのも必然だったのかもしれません。作者の万城目学さんは、今やベストセラー作家さんですから、もうすでにこのお話を読んでいる方も多いはずです。この作品で奈良に興味を持った方も少なくないと思いますから、改めて感謝したいですね。
なお、私は図書館で単行本を借りてきました。奈良の図書館ならどこでも見つかると思いますし、文庫化もされているので古書店でも手に入ると思います。単行本で約400ページとボリュームがありますが、今読んでみても十分に楽しめる小説ですから、ぜひ改めて手にとってみてください!