仏像と古代史 ミステリー案内
「仏像」と「古代」。意欲的な切り口が光る良書です
「仏像」を軸として日本の古代史を語った意欲作。仏像ブームとされる昨今ですが、その興味の対象を古代史にまで広げる方は少ないでしょう。仏像の造形に詳しくても、その像を、誰が、どんな時代に、何を願って作ったのかを結びつけて考えると、より深みが増してきます。筆者は、センセーショナルな古代史の謎を暴いてきた歴史作家さんです。そんな道に足を踏み入れるきっかけとなったのが、40年も前から通いつめている奈良の仏像だったとか。まさに他の方には書くことができないであろう内容で、とても斬新でした。
内容も豪華で、152点の写真と図解を使用。例えば、巻頭に登場する飛鳥寺・飛鳥大仏さんの画像や説明があった後、蘇我氏と天皇家の関係系図が登場し、古代史のエピソードへと繋がっていきます。
私は個人的に、仏像と古代史の両方が好きなので、どちらの話題も楽しく読めるどころか、予想外なエピソードも多く込められていて、最初から最後まで全く飽きませんでした。
仏像に関する記述は、やや個人の好みが強めに表現されている部分もありますが、旧山田寺・仏頭、蟹満寺・釈迦如来坐像、薬師寺・大津皇子像など、渋めの仏様にもページをさき、法隆寺夢殿・救世観音像に他にはない霊性を感じるという感覚には、強く共感を覚えます。
古代史に関する記述では、やや難しいところもあるのも事実です。筆者は、従来の歴史の教科書とは全く違った歴史観を持ち、ともすれば「トンデモ本」の作家扱いされかねない方のため、やや混乱するかもしれませんが、理路整然と歴史を再構築している印象があります。
かなりクセの強い一冊ですので、誰にでもオススメできるものではありませんが、仏像好き・古代史好き、双方の方に手にとってもらって、意外なアングルからの視線があることを発見して欲しいですね。