天孫降臨の夢―藤原不比等のプロジェクト (NHKブックス)
「聖徳太子は架空の人物」など刺激的で説得力のある一冊
従来の日本史観からすると有り得ないような説が連続して飛び出す、とても刺激的な一冊でした。中国大陸との関係性や、当時の皇室の人物などを論拠に、日本書紀の虚構を解き明かしています。資料が足りない部分は筆者の想像で補うしか無いため、一部にやや疑問に思う部分なども存在しましたが、決してトンデモ本の類ではありません。私レベルの人間にも分かりやすく古代史の作られたストーリー展開を読みといてくれます。
まず、筆者(大山誠一さん)の考え方として分かりやすい点を挙げてみます。
●聖徳太子は『日本書紀』が創りだした架空の人物だった
●蘇我王朝というべきものが成立しており、推古・用命・崇俊らは大王ではなかった
●廃仏崇仏論争も末法思想に基づいた創作だった
●古事記と日本書紀で、アマテラス系とタカミムスヒ系の神話が混在しているのは、当時の政治状況に合わせて作りなおされたため
●後に神格化された天武天皇(大海人皇子)も、政治能力は高くなかった
こうして見出し的に並べてみると、センセーショナルな週刊誌ネタのようさえ見えますが、どの論も説得力があります。これに反論できるだけの知識は持ちあわせていませんので、どこまで鵜呑みにしていいのか迷うところですが、少なくとも破綻は無いように思えるのです。
当時の権力者であった藤原不比等が「藤原ダイナスティー(王朝)」を作り出すために、日本書紀を始めとする史書を作り出し、徹底的に利用したのは間違いないでしょう。何せ、その総責任者ともいう立場の人間で、忘れがちなことですが、その当時であればほぼどのような形にも歪曲できたのですから。
複雑な内容ですし、古代史関係の書物を初めて読む方にはオススメしませんが、このような説もあるということを知っただけでも読んでみて良かったと思います。