住み継ぐ―藤岡建築研究室の改修・再生と新築―
町家の改修・再生の10軒の実例。古材を活かした「住み継ぐ」価値のある家の美しさは感動的です
奈良を拠点に、数多くの町家の改修・再生を手がけられている「藤岡建築研究室」さんの仕事を、10軒の実例を挙げて紹介した一冊。
暮らしやすくて、美しい。時が経つほど、味わいが増す。町家は、今なお深い魅力を持つ、伝統的な都市型住宅だ。素材を活かして豊かな空間をつくる、先人の知恵を受け継ぐ家づくりを紹介する。10軒の実例と知っておきたい改修の知識。
「内容紹介」より
美しい町家建築を見ても、それがどこの設計事務所の作品かなど気にする方は少ないと思いますが、こちらは私たちが目にしているモダンな町家の設計を数多く手がけられています。
本書にもたっぷりと登場しますが、3軒の町家を宿泊施設に生まれ変わらせた「奈良町宿 紀寺」など、その代表作といえるでしょう。
さらに、ならまちの町家の雰囲気を感じられるように新築した「ならまち格子の家」や、人気店となっている「粟ならまち店」「樫舎」など、登録有形文化財となった奈良市の「藤岡家住宅」、さらには元興寺や徳融寺の寺社建築など、数々の大きな仕事を手がけられています。
時間が経ってボロボロになってしまった町家であっても、木材が生きていればそれを活かし、現代風の住みやすい町家へと生まれ変わらせていきます。寒さに弱いという弱点も、最新の設備や技術を取り入れることで克服し、決してやせ我慢しながら暮らすようなものではなくなっているのだとか。
また、同社では町家の改修はもちろん、古材を活かした新築も手がけています。和の住環境を手に入れるための選択肢は広がっているんですね。
藤岡龍介さんのご著書『住み継ぐ―藤岡建築研究室の改修・再生と新築―』(建築資料研究社)の表紙。時が経つほど美しさを増す町家だからこそ「住み継ぐ」という発想が重要なのでしょう
10の実例が掲載されていますが、寂れた町家を宿泊施設として生まれ変わらせた「奈良町宿 紀寺の家」から始まります。ここはまさに「町家に住む」が体験できるお宿で、私自身は宿泊したことはありませんが、隅々まで観察させてもらって何度も歓喜の声をあげたものでした
「奈良町宿 紀寺の家」の5軒のうちの1軒「通り庭にある町家」のページ。端正な通り庭に水回りと椅子。ベットルームや座敷を見上げる形になります。段差もあって、現代のバリアフリーの風潮とは真逆になりますが、これだけの開放感と和的な陰影が出るのですからすごいですね
奈良町宿 紀寺の家の「前庭の町家」。実際に拝見したときも、この本で見たいまも、私個人的にはここが一番好きです。小さな前庭に面して掘り込み式の書斎スペースなどがあり、すっきりとシンプルながらとても魅力的でした。「ここで暮らしてみたい」とはっきりとイメージできるのがいいですね
奈良市の町家を改修した物件。間口三間で奥に長く、通り土間が伸びています。上の写真の「通り庭にある町家」と近い間取りですが、かなり雰囲気が違って見えます
大阪府富田林市のアーティストさんのお宅より。新潟県糸魚川市の古い農家建築の材を使っているそうです。古材をフレームに利用した新築物件ですから、現代的で端正なのは当然かもしれませんが、これだけ雰囲気のある建て方もあるんだと感心してしまいます
こちらも「新築・古材フレーム活用」の方法で建てられた、奈良市の物件。明治時代の蔵の材を利用し、新しい素材と違和感なく溶け込ませています。使い込むとさらに味が出て来るタイプでしょうね。ちょっと変形になっているのもポイントです
完全に新築の奈良市の物件。敷地が短冊型であることを活かして、中庭のある現代の町家にしたそうです。敷地の奥にあるお風呂や寝室へ行くためには、中庭に面した渡り廊下を通る必要があり、そのたびに外気に触れることになるとか。現代の家からは失われた設計ですが、それも町家の良さでしょう。羨ましいです!
町家の改修工事のやり方なども掲載
それぞれの物件が数ページずつ、たくさんの画像を使って紹介されていますので、それぞれの特徴がとてもわかりやすいですね。どれも町家らしい涼やかさがあり、やわらかな日が差し込む陰影の美しさがあって、うっとりしながらページをめくりました。
また、巻末には20ページ近く『「住み継ぐ」ために知っておきたいこと』として、
木造住宅の特徴や古材の再生、改修工事のやり方などが解説されています。町家に暮らしたいという夢をお持ちの方は、ぜひ目を通してみてください!
■住み継ぐ 藤岡建築研究室の改修・再生と新築
HP: https://www2.ksknet.co.jp/book/search_detail.asp?bc=93000174
価格: 1,800円(税抜)
サイズ: B5版
ページ数: 100ページ
ISBN:9784863585126