銭湯:「浮世の垢」も落とす庶民の社交場 (シリーズ・ニッポン再発見)
銭湯の歴史、現在、これから進む道。ややお固めですが興味深い内容です
ミネルヴァ書房さんの「シリーズ・ニッポン再発見」の2作目。日本全国の銭湯を巡り歩いた、庶民文化研究所の所長・町田忍さんのご著書で、銭湯の歴史から現在、これから進む道まで、たっぷりと書いています。
説明文:「全盛期には全国に18000軒あった銭湯。その数はどんどん減り、現在では4000軒を切ってしまっている。しかし、いつの時代も銭湯は、庶民の暮らしに寄り添って変化してきた。最近では、イベントを行うなど、趣向を凝らした新しいタイプの銭湯も生まれている。三十数年間で全国の銭湯を3500軒以上訪ねた著者が、豊富な経験をもとに、銭湯を歴史や庶民文化の側面から綴る。」
本書では、銭湯の歴史や雑学など、広範囲に扱っています。
●第一章 銭湯の歴史 銭湯ができるまで/江戸時代の銭湯/明治時代以降の銭湯
●第二章 銭湯に見る地域性 地域による銭湯の違い/銭湯と北陸の不思議な関係
●第三章 全国名銭湯巡り 全国選りすぐり銭湯/幻の銭湯/花街の銭湯を訪ねる
●第四章 銭湯美学 銭湯建築の美学/銭湯の絵画
●第五章 現在から未来へ 現代の銭湯/ニュー銭湯巡り
銭湯の歴史についての考察など、お固そうな内容に思えますが、これがかなり興味深いです。幕府などから混浴禁止令が出た、というような話はもちろんとして、石榴口(ざくろぐち)という低い入口をくぐって入浴した様子など、雑学としても面白いものが多いですね。
たとえば、江戸時代に銭湯へ持参する道具とは、現在の石鹸にあたるのが「糠袋」で、肌をつるつるにしてくれるのが「うぐいすの糞」、小さな丸い石を二つ使って毛を除去する「毛切り石」、ひげなどを挟んで抜く「二枚貝」などを使用していたとか。
また、関東圏の銭湯につきもののペンキ絵の紹介では、絵師の仕事ぶりだけではなく、ペンキ絵の下に掲載する広告を斡旋する広告代理店の存在にまで踏み込んでいます。この枠を販売する専門の広告代理店が、すでに大正時代の中頃には成立していたというのですから、驚くばかりですね。
なお、本書はテキスト中心ですが、町田さんの銭湯本は『関西のレトロ銭湯』『銭湯遺産』などがありますが、どちらももうなかなか手に入りません。別の方のご著書ですが、『関西のレトロ銭湯』という一冊がお勧めですので、銭湯好きな方はぜひ!
なお、偶然手にとった一冊でしたが、このシリーズの1作目は『マンホール:意匠があらわす日本の文化と歴史 (シリーズ・ニッポン再発見)』(紹介記事))でした。知らず知らずのうちに両方とも読んでしまいましたから、今後の展開にも期待したいと思います(笑)