
天智と天武 1 -新説・日本書紀- (ビッグコミックス)
二人の皇子の大河ドラマ。クセはありますがドラマティックで面白い!歴史好きな方は必読!
小学館「ビッグコミック」連載の『天智と天武~新説・日本書紀~』。2015年7月末に8巻が出ますが、6巻までを読了しました。私がこの古代を好きなこともありますが、とにかく面白い!設定などにクセはありますが、登場人物がみな活き活きと描かれていて、ワクワクしながらページをめくりました。
この時代の歴史には詳しくない読者も多いはずですが、ちゃんと連載が続いているのですから、やはり誰が読んでも面白いのでしょう。もっと早く読んでおけばよかったと後悔しました(笑)
主人公は中大兄皇子(天智天皇)と、その弟の月皇子(大海人皇子=天武天皇)。しかし、冒頭ではいきなりフェノロサ&岡倉天心のコンビが、法隆寺・夢殿の救世観音の封印をとき、光背が頭部に釘で打ち付けられていることを発見するシーンから始まります。「救世観音は蘇我入鹿の姿を写した像だ、という説をとっています。
私は未読ですが、これは梅原猛さんの『隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)』の意見を採用しているそうで、巻末には梅原さんと漫画作者・原作者の鼎談が収録されています。
ここで描かれる蘇我入鹿は、現代の歴史書にあるような国を私物化した悪徳政治家ではなく、革新的で聡明な男性です。今では「蘇我氏は悪玉として貶められているだけだ」という説も多く見られるようになっていますので、その説に従っています。
この他にも、このころの歴史に興味がある人間にとって、ちょっと戸惑うようなオリジナルの設定があるので、最初は注意が必要です。
●蘇我入鹿は女帝・斉明天皇と密通していて、天武の実の父にあたります。
●乙巳の変で活躍した「中臣鎌足」は=「豊璋(ほうしょう)」として描かれています。豊璋は百済の皇子で、人質として日本に暮らしていた。本国の滅亡後、白村江の戦いの中心となったとされる人物です。
このあたりが説明も少ないまま描かれるため、最初はかなり驚きます。展開も想像以上に早く、どうなることかと思いながら読み進めていくと、次第に骨太な歴史ドラマが展開されていきますので、1巻だけで投げ出すと後悔するかもしれませんね。
個人的に嬉しいのは、蘇我倉山田石川麻呂、孝徳天皇、額田王、鏡王など、通常の歴史本では短い記述しか当てられないような人たちが、活き活きと描かれていること。どの人物もとても魅力的です。
また、白村江の戦いも、大和の国内の話ばかりではなく、ちゃんと百済内部の事情なども織り込まれており、かなり脚色は混ざりますが、ちゃんと戦争を描いています。「無理やり派兵を強行して、百済側の内紛もあって大敗した」だけではなく、詳しくない方でも十分に楽しめるような描き方をしてあります。
山岸凉子さんの名作漫画『日出処の天子』で聖徳太子に興味をもった、という方は少なくありませんが、この『天智と天武』で古代史に興味をもってくれる方が増えそうなのも嬉しいですね。あの独特の怪しげな雰囲気も似ていますし。
この時代をもとから愛していた方にとっては、やや設定に馴染みづらいかもしれません。しかし、読み進めていけばきっとはまると思います。ぜひ手にとってみてください!