仏像の顔――形と表情をよむ (岩波新書)
仏像の顔の時代ごとの特徴と変遷を解説。言葉では難しいものですが、明快で的確でした
仏像の「顔」に絞って、時代ごとの特徴と変遷を解説した一冊。仏像が生まれた当初のインド・中国のもの、飛鳥時代・白鳳時代・天平時代・平安時代の前期後期・鎌倉時代と、その時代ごとの代表的な仏像を例に挙げて、どんなお顔に作られたのかを解説しています。
それぞれ明らかに特徴がありながらも、なかなか言葉で言い表すのは難しいものですが、本書ではしっかりと解説されています。
説明文:「いいお顔をしている――仏像を見たときそう感じるのはなぜだろう。眼、眉、唇、輪郭のどんな特徴がそう思わせるのか。インド、中国を経て、日本にもたらされた仏像は、顔も時代ごとに変化した。本書では、法隆寺金堂釈迦如来、興福寺仏頭、鎌倉大仏など、各時代の著名な仏像の顔をつぶさに分析。仏の仏たるゆえんを顔から読み解く。」
日本の歴史上、もっとも早く仏像の表情について書かれたのは日本書紀で、百済から請来した金銅仏を拝した欽明天皇が「相貌瑞厳(かおきらぎら)し」と感想を述べたとあります。
その後、飛鳥時代には飛鳥大仏などの仏像が作られるようになり、その表現として「杏仁形(きょうにんけい)の目、仰月形(ぎょうげつけい)の口、古拙(こせつ)の微笑み」といった言葉が頻繁に用いられるようになります。
杏仁形とは、いわゆるアーモンド形に近いもの。余談ですが、私は「あんずの種」だと思っていたのですが、実はあんずの種は丸く、杏仁豆腐の原料にもなる種の中の仁(さね)の部分を指すのだとか。仰月形の口とは、いわゆる口角が上がったこと。古拙はアルカイックスマイルですね。
この時代から白鳳時代にかけて、どこかあどけなさを感じる表情の仏像が増えてきます。人の顔をあどけないと判断するポイントは、「丸顔・目と耳の位置が低い・目と目が離れている・目と眉が離れている・鼻柱が低い」などだとか。こうした特徴に当てはまる作例が多いんですね。
また、白鳳時代以降の仏像には「蒙古襞(もうこひだ)」というものも表現されるようになったとか(興福寺・仏頭など)。目頭の内側、ピンク色の肉が見える部分(涙阜。るいふ)が上瞼でかぶさっていることで、これはモンゴロイド特有の目の形なのだそうです。
また、目の表現としてはほとんどが一重まぶたで作られていますが、二重まぶたの仏さまもいらっしゃいます。法隆寺・伝橘夫人念持仏の阿弥陀如来像、大阪・野中寺・銅造弥勒半跏像、正暦寺・銅造如来倚像、法輪寺・薬師如来坐像など。
とりとめのない書評になっていますが、仏像のお顔や表情だけで、これだけ色んな特徴があるのがすごいですね。
私は普段からよく仏像を拝見していますし、それを説明するためのテキストを書いています。しかし、仏さまのお顔の説明はとても難しく、いつも中途半端な言葉しか出てきませんでした。そういった意味でも、本書はとても参考になりました。
ただし、使用されている画像がどれも小さめで、肝心の仏さまの表情の特徴がよく分からないのが残念ですね。本書で取り上げられているのは、どれも有名な仏像ばかりですから、お姿のおおまかなイメージは思い浮かびますが、やはりアップの写真と比較して観てみたいです。本書とは別に仏像の写真集を用意したり、ネットで画像検索しながら読むと、より理解できるでしょう。