仏像歳時記
「仏像と年中行事」という観点から、人と仏像の関わりを捉え直した興味深い一冊。良書です!
仏像と関係の深い年中行事を取り上げて、日本人と仏像の関わりを捉え直した、とても興味深い一冊です。
仏像ブームなどと呼ばれて久しく、仏さまにお会いするためにお寺をお詣りすることは多々あります。また、全国の寺院では季節ごとの法要などを行い、それ様子を拝見することも少なくありません。しかし、私自身は、法要を営む僧侶の視線の先に仏さまがおわすという感覚は薄く、それをまったく別のものとして捉えていました。そういった意味で、本書の切り口は新鮮に感じました。
説明文:「仏像は古来、人々の願いや祈りのなかでつくられてきた。今も私たちを静かに迎えてくれる仏像はそれぞれ、人々の思いを受け止め歴史を重ねてきた物語を秘めている。四季折々のお寺の行事を訪ね、仏像のひと味ちがう魅力に出会います。「仏像のみかた」の本は沢山ありますが、単なる美術的観点からの「みかた」とは本書はひと味異なります。なぜ私たちはお参りにいくのでしょう。その祈りの先に仏像はあります。本書では、お寺の行事を通して人々の仏像へ託す思いを巡ります。仏像がひと味もふた味も違って見えてくるはずです。」
仏像が重要な役割を果たす仏教行事というと、私は真っ先に、お釈迦様の誕生をお祝いする4月8日の「花祭り」(仏生会・灌仏会とも)に登場して、甘茶をかけてお祝いされる「誕生釈迦像」が思い浮かびます。お釈迦様の誕生の姿を表した像で、まさに仏像が主役となる一日ですね。
もちろん、私などはあまり意識していませんでしたが、法要の対象となる仏像というものは少なくありません。
本書で取り上げられているのは、七福神巡り・修正会・修二会・涅槃会・十三参り・文殊会・彼岸会・六阿弥陀詣・灌仏会・来迎会(迎講・練供養)・弁天祭・およく・盂蘭盆会・地蔵盆・達磨忌・お十夜・御会式・仏名会など。その法要の意味と成り立ちを解説しながら、具体的なお寺の例を挙げて解説されていきます。
例えば、毎年正月に国家安泰・五穀豊穣を祈願したことが始まりとされる「修正会」という法要があります。対象となるのは吉祥天が主で、奈良の東大寺では、像高2mほどの貴重な塑像、吉祥天像・弁財天像に対して行われていたそうです。この両像は古くは「吉祥堂」というお堂に祀られていましたが、954年に焼失し、その後に法華堂へと移され、ここで法要が営まれてきました(現在は東大寺ミュージアムへ)。現在ではだいぶ形式も変わっているそうですが、そんなルーツがあるんですね。
個人的に気になった点をメモ代わりに書き留めておきます。
●お釈迦様の誕生を祝う灌仏会。奈良時代には大寺院のみで行われていたが、平安時代には宮中や貴族の邸宅で行われた。鎌倉時代にはまた寺院で行われるように。甘茶をかける風習は黄檗宗から。「花祭り」と呼びはじめたのは浄土宗で、明治時代のことだったとか。
●二十五菩薩の面をかぶったものが練り歩く来迎会(練供養会式)。弘法寺の練供養では、面だけではなく人がかぶって歩ける阿弥陀如来像が登場する。鎌倉時代に作られた像で現在も使用されている。當麻寺では、現在は仮面だけだが、像内に人が入って担ぎ、胸の穴から外が見えるようになっている迎講阿弥陀如来立像が現存する。室町時代にはその像を本堂の縁先に引き出すだけに簡略化され、現在では行われなくなった。
仏像と人々の関わりを、仏像本とはまた違った観点で観られますので、とても新鮮でした。興味がある方はぜひ!