塔と仏堂の旅―寺院建築から歴史を読む (朝日選書)
お堂や塔など、具体的な事例から古建築の歴史と特徴を解説した一冊。分かりやすい良書です!
素人目には見極めが難しい日本の古建築について、具体的な事例を挙げてその特徴を正しく把握し、歴史的な流れを読み解くことを目的とした一冊。お堂や塔など、寺院で目にするもののそれがいつの時代のものなのか、どんな役割と特徴を持つものなのかは理解しづらいものです。本書は雑誌などへの掲載記事をまとめたもので、会話形式が用いられていたり、写真や図版を多めに用いたりと、初心者にも比較的分かりやすいような工夫がされています。
仏像や仏画の鑑賞については、建築の分野と比べると専門用語はそれほど多くないそうで、解説書も多数見つかります。本書のように日本建築の流れを誰にでも理解しやすいように平易に解説したものは貴重であり、とても興味深く読めました。
説明文:「奈良や京都には、どうして何百年以上も前に建てられた古建築が今も健在で残っているのだろうか。誰もが一度は抱く素朴な疑問を解決するために、日本建築を正しく把握する方法を身につけよう。そのうえで、今も多くの人びとを引きつける寺院建築が、歴史の流れの中でどのような役割を果たしたのか、どのような意味をもったのか、を考えてみよう。古代や中世の寺院建築はどのように使われたのか、どんな人がそこで活動していたのか。そんな生きた建物の歴史を読み解くことこそ、汲めども尽きぬ古建築の魅力なのだ。私たちの身の回りにある歴史的建造物を手がかりにして、いままで見えなかった歴史の一面が見えてくるなら、こんな楽しいことはない。」
本書の章立ては以下のようになっています。
●第1章「仏堂」 古代-唐招提寺金堂など、中世-当麻寺曼荼羅堂、近世-照蓮寺本堂。
堂内で時代ごとにどのような法会が行われていたかによって、建物の形式も変遷していることを解説。
●第2章「塔」 五重塔-醍醐寺、大塔-根来寺、三重塔-浄瑠璃寺。
外見が多様なだけではなく、時代によって工法や内部空間の取り方、使い方も変わってきている。
●第3章「折衷様」 浄土寺-本堂、多宝塔、明王院-本堂、讃岐国分寺-本堂。
鎌倉時代以降に流行った建築様式。和様に大仏様・禅宗様が混ざったもの。瀬戸内の周辺にこの時代の堂塔が多数遺されている。
私も寺院建築を観るのが好きですから、普段から細かく観察してきたつもりですが、内部空間の変遷などは気づくことができません。例えば、古くからお堂の礼堂は俗人のもの、内陣は仏が安置される空間と区別され、柱や天井など建築も変えられています。しかし、これも時代とともに変遷していて、良く言えば仏さまと人間が次第に近しくなってきているのだとか。何度も目にしてきた唐招提寺金堂なども、時代ごとに少しずつ変化が見られるのだそうです。
また、塔にしても、当初は釈迦を祀るものとして、内部に人が入ることは想定されていなかったといいます。大きな木の柱が1本立っていただけという姿の時代もあったとか。しかし、その後、建築様式も使い方も変わっていきます。相輪の比率や心柱の立ち方(地面に接しているか、2層目から立ち上がるかなど)、四天柱の有無、塔内の仏像の有無など、大きな変化が見て取れます。
ややこしいことのように思えますが、少しでもこういった知識があると、お寺めぐりの際の楽しみが増えますから、興味がある方はぜひ手にとってみてください。