バザラにホレた!―新薬師寺・十二神将彩色再現ものがたり (DIGITAL WONDER ARCHIVE BOOKS)
新薬師寺・伐折羅像の3Dデータ化、天平時代の色彩再現に挑んだ番組のリアルドキュメント
奈良・新薬師寺におわす、天平時代の薬師如来坐像と十二神将像。壊れやすい塑像(いわゆる粘土製)にも関わらず、1250年もほぼそのままの形で遺されている貴重な仏さまです。
中でももっとも有名な「伐折羅(ばさら)大将像」を、2001年からレーザースキャニングして3Dデータ化、さらに天平時代の華やかな色彩を再現するという試みが行われていました。作業にあたった制作会社の方たちが、その裏側を手記のような形に書き起こしたのが本書です。だいぶ時間は経ってしまいましたが、貴重な文化財と接する興奮や怖さなどが伝わってきて、楽しく読めました。
説明文:「バザラとは奈良県の新薬師寺に安置されている本尊、薬師如来を護衛する十二神将の内の一体、伐折羅大将像のこと。500円切手のデザインにもなっている。今はほとんど色が残っていないが、つくられた当時は、ジャングルに咲く原色の花々のように鮮やかな色彩に包まれていたという。ワビ・サビで捉えられがちな「文化財」。実は当時最高のクリエーターが最先端の技術を駆使した前衛アートだったのかも知れません。そんな視点から、現代の最先端技術と意気込みと遊び心を持って文化財に体当たりしたのがこのシリーズです。」
今ではほとんど伐折羅像の色彩は剥落していますが、制作当時は華やかな天平の文様に彩られていました。像の形を正確に写しとり、わずかな手がかりをヒントに当初の色彩を甦らせた姿は、DVD作品『まぼろしの色彩を追って~奈良新薬師寺 天平のバザラに会いたい~』として発売になりました。また、新薬師寺の本堂でもこのDVDが上映されていますし、これをもとにした絵葉書なども購入できます。
今の古色蒼然とした姿からは想像もできないような華やかな色調で、顔は真っ青、甲冑もド派手な文様が描かれていて、かなりのインパクトがあったものです。
本書では、そんな作業の裏側をスタッフ自らが描いています。書き手は、レーザースキャンを担当する技術者男性と、番組制作サイドの若い女性。お二人が交互に作業の様子やお互いの印象などを書いていくという、ちょっと変わった構成で、最初は書き手が誰だか理解できずにちょっと混乱してしまいました。
少しでも触れたら剥落してしまう塑像が相手ですから、作業は困難を極めます。また、文様の再現も簡単なはずもなく、一部は「専門家が調査しましたが分かりませんでした」で終わった部分もあり、そこがリアルですね。視聴者のウケを考えて適当な色彩をはめこんだりしてはいけないのは当然ですが、ちゃんとそれが守られていたようです。
この本単体でもそれなりに面白いのですが、文化財をテーマにしたDVD制作の裏側を描いた本ですから、やはり元となった映像作品を観ていないとピンと来ないかもしれませんね。とても良く出来た作品ですので、機会があったらぜひDVDもご覧ください。