2013-04-06

アシュラブック 興福寺 阿修羅像から東大寺 不空羂索観音像へ (ASURA BOOK)

ポップな書名と装丁ながら、奈良の天平仏を総合的に解説した読み応えある仏像本でした

奈良・興福寺の天平時代の美仏・阿修羅像。この像が造られた背景と、八部衆も含めたルーツを解説した一冊。ただし、最初から最後まで阿修羅かと思いきや、後半は東大寺・不空羂索観音像との関連性を述べ、他の奈良の美しい仏さまにも触れています。特に阿修羅像が…というのではなく、奈良の仏像全般が好きな私にとっては、奈良の天平仏を概略した後半の方が面白かったくらいです。

キャッチーな書名とポップな装丁のため、仏像ガール的な方への分かりやすい入門書かと思って敬遠していたのですが、内容はかなり専門的。テレビの録画番組でも観ながら、パラパラッと読もうと思っていたのですが、それどころじゃありません。かなり集中して読むべき内容でした(笑)


説明文:「興福寺の阿修羅像が美少年になった理由とは?興福寺の阿修羅像は、日本の仏像の中でナンバーワンの「美少年」です。ですが、阿修羅のルーツをたどっていくと、ある疑問にぶつかります。阿修羅はそもそも鬼の神。インドや中国など各地でつくられた像の多くは、すさまじい形相をしているものが多々あり、美少年のイメージから遠くかけはなれています。では、なぜ興福寺の阿修羅像が生まれたのでしょうか?本書では、美少年が生まれるヒストリーの裏に隠された、人間のさまざまなドラマに迫ります。また、最近の研究により新事実の発覚した、東大寺不空羂索観音像との関係もクローズアップ。さらに、奈良の美仏も多数収録。奈良の仏像の「美しさ」を徹底的に解説。仏像好き必見の一冊です。」


前半部分は阿修羅パートです。阿修羅像の三面六臂・幼さの残る表情・なぜ衣服を身に着けていないかなどが解説され、そのルーツをイランから中国へと辿っていきます。インドラとの戦いに敗れたアスラが鬼神として復活する道のりですね。そして八部衆などのチームの一員として描かれる機会が増えていきます。

八部衆それぞれの由来にも詳しく触れていて、乾闥婆(けんだつば)はヘラクレス、緊那羅(きんなら)は一角仙人、五部浄はガネーシャ、鳩槃荼(くばんだ)は夜叉との関連性などを指摘しています。ユーラシアの神々が群像として日本に祀られるまでの変遷が面白いですね。豊富な画像で紹介されていて分かりやすかったです。また、八部衆の面々は、法隆寺・五重塔の初層塑像群にもその姿が見られるものが多いのだとか。改めて法隆寺で確認してみたいですね。

後半は、阿修羅像と東大寺・不空羂索観音像との関連性について、歴史を紐解きながら解説しています。最近の八角二重基壇の調査で判明した、法華堂の当初の像の配置(戒壇堂・四天王像も法華堂に祀られていたなど)にも詳しく触れられています。また「日光・月光菩薩像は梵天・帝釈天なのか?」「執金剛神と不空羂索観音は表裏一体」なども読み応えがありました。

執金剛神については、平将門の乱の際、髪の元結が蜂になって襲いに行ったエピソードが有名ですが、この執金剛神像が造られて間もなく起こった藤原広嗣の乱の際に、この像の前で良弁僧正らが修法を行ったことからの連想である、また執金剛神像の厨子の前の鉄製の吊灯篭には、火袋に蜂が透かし彫りされているなど、この手の解説も詳しくていいですね。

そんな細かさで東大寺の歴史から紐解いており、(途中経過は省きますが)筆者は光明皇后が造らせた仏像の「不空羂索観音像=聖武天皇の現し身」「阿修羅像=基皇子の現し身」と推測しています(基皇子は、聖武天皇と光明皇后の子で、一歳で亡くなりました)。光明皇后が尊敬していた持統天皇が「薬師寺・薬師三尊像=天武天皇の現し身」として作ったことに倣ったのだろうと。

何となく納得してしまいそうですが、Amazonのレビューにありましたが、「なぜ基皇子を阿修羅として表したのか」の説明が難しいですね。群像の中のひとつではなく中尊として作りたいでしょうし、戦いの神・阿修羅が選ばれた理由の今ひとつ曖昧です。もちろん、状況証拠から推測するしかないのですから、色んな意見が出るのは当然なんですけどね。

そんなことを感じながらも、読み応えのある内容でした。阿修羅の本というよりは、興福寺と東大寺の仏さまたちの造像の秘密を一気に振り返るようになっていますので、仏像好き・歴史好きの方は手にとって見てください。初心者の方だとちょっと難しすぎるかもしれません。


『<$MTEntryTitle$>』より

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