仏像の秘密を読む
仏さまを「造形・技法」の二つの面から解説。仏像修復のプロならではの視点です
仏像の保存修復の第一人者・山崎隆之さんによる2007年出版の著作。「造形の秘密」「技法の秘密」の2部構成で、仏像修復に関わる方ならではの視点から、それでいてとても分かりやすく仏像の造形的な成り立ちについて解説してくれています。
私も仏像は好きですが、それを見る目は素人ですし、表現する言葉は貧弱です。美しい・力強いなど仏さまの姿形を表す言葉はありますが、それを突き詰めて考えたことはありません。私の周りのマニアには、衣紋(服のひだ)・髪型・ふくよかさなど、色んなアングルから仏さまを分類し、特徴や時代を見抜く者も少なくありませんが、見る目を鍛えなくてはいけません。
本書はその入門編としても最適で、仏さまを見る際の「目の付けどころ」を教えてくれる一冊です。
登場する仏さまは、奈良や京都のお馴染みの方々がほとんどです。例えば、冒頭の奈良・飛鳥寺の止利仏師作の飛鳥大仏さまについては、造像当時のパーツは顔の一部と右手の掌と指三本のみに過ぎません。しかし、その指の爪の形が的確につながっていない奇妙な形になっています。これは、当時はまだ手本とする資料が少なく、小さな金銅仏をもとに作ったため、このような表現になったのではないか、と推論しています。
また、東大寺法華堂の御本尊・不空羂索観音像について、修復現場で間近に見てみたところ、遠くから拝したのとは全く印象が違ったことに驚いたとか。「はちきれんばかりと思った胸の上部が、浅く凹んでいるだけではなく、顔の中央部、鼻脇や鼻下、顎の脇も凹んでいた。まるで量感など意識していないような造形なのだ」現場にいた者だけが分かりうる特徴でしょう。
こうした外観からの面だけではなく、この像を一木で掘り出すためにはどのような材を使うか、塑像の内部の構造をどうするかなど、造仏にあたっている仏師ならではの視点も面白いですね。単純に遠目から仏さまに拝しているだけでは分からないアングルから、様々な発見があるのが楽しいです。
「各仏師は技術を磨き、改良を重ね、依頼者である願主のさまざまな要望に応えようとした。一方、願主にはそれぞれ悩み、不安また恐怖などがある。そこから救われたいとの切実な願いがある。仏師は、ただ単に決められた図像通りに仏像を造るのではなく、そこに願主の期待に応じるべく、秘かに願主の意を汲み、ともに恐怖に立ち向かいながら、願主を力づけ、なぐさめ、救うためのさまざまな仕掛けを隠し置いたのだ。本書では、その秘技、秘策を、各仏像の中から探り出し、仏師の意図を読み解いてみたい。」
紹介文はこのようになっています。仏さまとお会いした際に、また新たな視点から拝見できるようになる一冊ですね。