
メメント・モリ
藤原新也さんの代表作の新装版。タイトルは「死を想え」。ざらっと強烈な作品集です
今から30年以上も前、1983年に刊行された、写真家・作家の藤原新也さんの代表作。2008年に新装版として登場したものを拝読しました。アジア各地を旅して『印度放浪』『西蔵放浪』などを著した方で、本書では「死」の気配が感じられる74枚の写真を、短い言葉とともに収録しています。
説明文:「生と死を謳う現代の聖典、メメント・モリ、大刷新!一瞬で情報の入れ替わるこのむなしい時代を、長きにわたって読みつがれてきたロングセラー。いま、絶望の時代を生き抜くべく、新たな言葉と写真の牙を研ぎ澄まし、新登場!衝撃の刊行から25年。多くの才能に影響を与え続けてきたロングセラー作品が、「21世紀エディション」として生まれ変わりました。カバーデザインを一新。20点以上の新たな写真とコピー、「銀字印刷」によって綴られた言葉が、新たな歴史を刻みます。」
書名の『メメント・モリ』とは、「死を想え」という意味で、ヨーロッパ中世末期にさかんに使われたラテン語の宗教用語だとか。タイトルどおり死を連想させる風景、死とは対極にありそうな風景などを用いながら、奇妙な静けさを感じるような作品が並びます。
どれもやや粗い写真ばかりですが、ざらざらとした手触りを感じ、口の中が苦くなるかのよう。どこか現実感がない、同時に妙にリアルな不思議な世界を切り取っています。
写真に添えられた短い文章も強烈です。
●「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」(人間の死体をかじる野犬の写真)
●「ニンゲンの体の大部分を占める水は、水蒸気となって空に立ち昇る。それは、雨の一部となって誰かの肩に降りかかるかもしれない。何パーセントかの脂肪は土にしたたり、焼け落ちた炭素は土に栄養を与えて、マリーゴールドの花を咲かせ、カリフラワーをそだてるかもしれない」(河原の死体を野焼きした写真)
●「祭りの日の聖地で印を結んで死ぬなんて、なんとダンディなヤツだ。」(インドの川辺の死体の写真)
さらに、美しく咲き誇る満開の花々などについても、まさに「死を想え」という言葉が添えられます。胸がざわざわするようで、気力が足りない時には手に取らないほうが無難かもしれません(笑)
本書は「21世紀エディション」と名づけられた新装版で、カバーデザインを一新し、20点以上の新たな写真とコピーが加えられているとか。また、文字を銀色で印刷することによって、また特別な雰囲気を醸し出しています。以前のバージョンは読んでいませんが、とてもいい本づくりになっていると思います。
折にふれて読み返したくなる、不思議な一冊ですね。