八雲立つ出雲 植田正治、上田正昭が歩いた神々のふるさと
山陰を愛した写真家、古代史研究の第一人者。半世紀前の二人の共著が復刻された一冊
山陰の風景を愛した写真家と、古代史研究の第一人者だった学者が出版した昭和40年台の2冊の著作を再構成して復刻したもの。2012年7月に開催された「神話博しまね」の公式図録兼書籍として企画されたものです。
今でものどかで、神さびた空気感のある山陰の風景ですが、半世紀前はさらにその感が強くなりますね。
説明文:「写真家と歴史家、ふたりのUEDAが神々に誘われて旅した出雲。昭和40年代に発刊された書籍『出雲の神話』と『出雲』。出雲神話ゆかりの地を紹介するこれらの書籍は、鳥取県境港市出身で写真界の巨匠故・植田正治氏が撮影した写真と、歴史学者で島根県立古代出雲歴史博物館名誉館長の上田正昭氏が執筆した文章で構成されています。40年以上の歳月を経て時代が流れても、その作品の底流に流れる“出雲の空気感"は、ゆるぎなくそこに今もなお、静かに佇んでいます。2012年7月開催「神話博しまね~古事記一三〇〇年」関連特別展の公式図録兼書籍。」
その写真家とは、鳥取県在住で「植田調」という言葉まで登場した植田正治さん(Wikipedia)。自然の中に人間をオブジェのように配置するなど、後の広告写真業界などに大きな影響を与えた方です。
本書ではそういった構成的な写真は少なめで、モノクロフィルムを中心に、静かで崇高に感じられる山陰の風景を収めています。植田さんが配置などをディレクションした写真は、表紙にも使用されている「七類のどんど行列」くらいかもしれません。出雲の物語を感じさせるような静かな力強さがある写真ですね。
そして、文章を寄せているのは、京大教授で古代史研究の第一人者だった上田正昭さん。その当時、どちらかというと軽く観られていた出雲の古代を研究し、古事記や日本書紀とともに「風土記」の重要性を説いた方です。テキストは短めですが、決してややこしいことは言わず、物静かに歴史や自然の美について語っていらっしゃいます。
この二人のUEDAさんは、1965年の『出雲の神話』、1974年の『出雲』という2冊の共著を残していました。本書はこの2冊をもとに復刻、再構成したという面白い企画になっています。決して派手な内容ではありませんが、とても味わい深い一冊でした。