奈良大和路の桜 (奈良を愉しむ)
奈良県内の51ヶ所の桜を美しい写真と短い解説文で紹介。まだ見ぬ桜がきっと見つかります!
2014年から淡交社さんがスタートさせた「奈良を愉しむ」シリーズの一冊。『奈良 大和路の紅葉』(紹介記事)、『奈良 大和路 茶の湯逍遙』(紹介記事)と続き、いよいよ春の桜です。
奈良県内の51ヶ所の桜の名所を、美しい写真と短い解説文で紹介したもので、ガイド本としても十分に使えますし、パラパラッと眺めているだけでも楽しいですね。
説明文:「日本一の桜の名所と謳われる吉野山の千本桜をはじめ、奈良県内に点在する多くの桜の名所・名木をめぐる大人のためのガイド。土地の人々と共に歴史を刻んできた花と出会う旅へといざないます。花の絶景、穴場スポット51ケ所を収録。」
奈良の桜というと、やはり吉野山がもっとも有名でしょう。春の広い奈良県は寒暖の差が大きいため、開花時期もさまざまで、3月末ごろの奈良公園近くの氷室神社のしだれ桜から始まり、1ヶ月以上も桜が楽しめます。
また、ソメイヨシノの見事な並木がある一方で、吉野の桜のようにヤマザクラ、しだれ桜の古木、遅い時期に開花するナラノヤエザクラなど、さまざまな桜が見られるのも特徴でしょう。
本書では、奈良の桜の名所51ヶ所を、4つのエリアに分けて紹介しています。
●奈良市 市街および郊外 ─ 東大寺・吉城川・氷室神社・飛火野・元興寺・徳融寺・佐保川など
●大和郡山から斑鳩・當麻・葛城古道へ ─ 郡山城址・矢田寺・三室山・當麻寺など
●桜井から大和高原、宇陀・曽爾へ ─ 長谷寺・談山神社・西念寺・大照寺跡・西光寺・又兵衛桜・佛隆寺・屏風岩など
●飛鳥から吉野・天川へ ─ 石舞台・南淵請安墓・吉野山・神童子谷など
奈良の桜はだいぶ熱心に見て回っているつもりですが、それでもまだ観たことがないような場所も多いですね。宇陀市や曽爾村など、かなり山深い場所に堂々と立つ桜も多いですし、桜の名所とは認識していなかったスポット(アジサイが有名な矢田寺など)もあり、とても参考になりました。
合間は桜に関する短い文章が掲載されていますが、金峯山寺・田中利典さんなど豪華執筆陣が担当していて、どれもとても興味深いです。
春日大社・岡本彰夫さんは、桜が散った頃に行われる「花鎮め」について、奈良植物研究会・菅沼孝之さんは、伊勢大輔の歌にも詠まれた「ナラノヤエザクラ」の復活についてを分かりやすく書いていらっしゃいました。
また、冒頭で書かれていて私も忘れがちなことですが、現在では「日本の桜=ソメイヨシノ」というイメージですが、これが開発されたのは幕末から明治初期にかけて。それまでは日本古来のヤマザクラが主でした。つまり、万葉集に詠まれた桜も、西行が愛した桜も、ソメイヨシノの姿ではなかったのです。昔の歌を見たりする時には、このことを思い出したいですね。
奈良の桜を見て回る際には、とても参考になる一冊ですので、興味のある方はぜひ!