奈良 大和路 茶の湯逍遙 (奈良を愉しむ)
古代から現代まで、奈良と茶の湯の歴史を解説。知らなかった奈良の一面が見えてきます
平城京の時代から、大和国で脈々と受け継がれてきた「茶の湯」の文化。平城京の時代から中世・近代まで、奈良と茶の湯の関わりを時代ごとに丹念に追っています。
●空海の高弟・堅恵が創建した宇陀市・仏隆寺が「大和茶発祥の地」を名乗っている
●茶の湯の創始者とされる村田珠光は奈良の生まれ
●大和小泉藩の藩主だった片桐石州が武家茶道の石州流の祖
●現代でも大和高原を中心に大和茶の栽培が盛ん
●生駒市高山町は、日本最大の茶筅(ちゃせん)の産地
奈良と茶といえば、こうした項目が連想できますが、本書では語られる歴史はもっともっと深いです。知らなかった奈良と茶の湯の関係が次々と語られて、とても興味深く読めました。
説明文:「どこよりも深くて長い「茶の湯とのかかわり」。奈良市および奈良県内の茶の湯の史跡を、古代から現代まで時代を追ってご紹介。ゆかりのある茶人や茶道具、エピソードについて、最新の情報を交えながら案内します。」
本書では、奈良県内の茶の湯の史跡を、奈良時代から現代まで、場所ごと・時代ごとに紹介しています。著者さんは「茶道史研究家」という肩書をお持ちの方ですから、他の観光ガイドとはまったく違った視点が感じられます。
以前は「鎌倉時代には、茶は禅寺でしか飲まれておらず、ここから一般に広がった」という見方をされていましたが、じつは奈良ではそれ以前か茶園があって、幕府の置かれた鎌倉まで運ばれていたこともあったとか。興福寺などの寺院が支配していた奈良では、茶を嗜む文化が早くから根付いていたのだそうです。
南北朝時代に書かれた書物には、茶の名産地は、京都・栂尾が第一とし、それに次ぐランクで奈良・般若寺が、さらにその下に奈良・室生寺が挙げられているとか。
●室町時代には、茶を飲み比べて産地をあてる「茶勝負(闘茶)」という賭け事が行われていた。
●村田珠光は千利休によって称揚され、出身地である奈良も、戦国時代の茶人たちにとっても特別な地として観られていた
●珠光が始めた茶の文化は、転害門近くに住んでいた豪商・松屋などに広まり、茶会の記録を書き留めた『松屋会記』は重要な研究資料にもなっている
もちろん、村田珠光や片桐石州など有名茶人の章も設けられています。こうした方々が登場したのも、決して突然変異ではなく、文化的な下地がちゃんとあったからこそなのだということが、しっかりと伝わってきました。
現代でも奈良の茶人は「奈良県産のものだけで茶会ができる」と言ったりするとか。お茶・漆器・陶器・茶巾・茶筅など、いま現在も奈良ではすべてが生産されているのですから、ある意味すごいことですね。
奈良の歴史をこうした角度から眺めてみると、また違った発見がありました。ぜひたくさんの方に手にとって欲しい良書でした!