百年前の山を旅する (新潮文庫)
昔の装備や古いルートを使うサバイバル登山の記録。面白いテーマですが、やや消化不良か
昔の方の装備を使用する、今は消え去ってしまった古いルートを使うなど、制限を設けた「サバイバル登山」にチャンレジしている著者による、冒険的な登山記録集。とても面白そうなテーマですが、売り文句と内容にややギャップがあって、消化不良な感もありました。
説明文:「「鯖街道」と呼ばれる若狭から京都へと続く山道。担ぎ屋は灯りも持たず一昼夜で駆け抜けたという。著者は現在のルートより短距離で一直線だが、はるかに急峻な古道を探し、テントも燃料も持たず、草鞋を履きその道を辿る。現代の山行はテクノロジーの進化で、自然と闘い、溶け込む、本来の行為から遠くなった。奥多摩、北アルプス、奥秩父――登山の原点を見つめたサバイバル紀行。」
日本で近代的な登山が始まって以来、いくつもの登山記録が出版されています。日本初の縦走登山だったり、沢登りだったり、初登頂の記録だったりするのですが、資料として残っているものの、別ルートが整備されてしまったため、当時の道は消えたりしているそうです。そういったルートを探しながら、現代の装備などを出来るかぎり使用せずに後をなぞる、という企画がメインです。
現在では、ゴアテックスのウェアを着れば、雨だって怖くありません。テントを張れば大抵の寒さもしのげますし、煮炊きだって簡単にできます。しかし、そんな便利な道具が無かった時代の登山を体験すると、難易度は格段に増し、充足感があるそうです。こうした制限付きの登山スタイルも憧れますね。
しかし、本書の内容では、ルートをたどったりすることを主な目的にしていることもあり、私のような山の素人にはその楽しさがストレートに伝わってきません。サバイバル的な要素の描写が薄いので、大変さが実感できないんですね。登山経験が豊富な方が読むとまたまったく違った印象になると思いますが、その点がやや残念でした。
なお、鯖街道を歩く企画もありますが、鯖街道という言葉自体が近年になって言い出されたものであり、そのルートもはっきりとしていないのだとか。それでもそれに近いルートを歩き通した結果、何とか一昼夜で完歩できるようです。照明器具も貧弱な夜の道を歩くのは大変だったと思いますが、現代に追体験してみることに価値がありますね。
手放しに面白かったと言える内容ではありませんでしたが、山好きな方はどうぞ。