写真集 美しい刑務所 明治の名煉瓦建築 奈良少年刑務所
美しい近代建築の姿を収めた写真集。関係者さんの温かいコメントも必見!
2016年度末で廃庁となり、史料館とホテルなどの複合施設として生まれ変わることになった「旧奈良監獄(奈良少年刑務所)」を撮影した写真集であり、その運営や保存運動に関わってきた方々から寄せられた文章を収録した一冊。
受刑者の教育や保存運動に尽力された、奈良在住の作家・寮美千子さんが中心となって出版されました。
2017年7月に行われた一般見学会(紹介記事)で、私も内部を拝見してきましたが、本書ではまだ少年刑務所として使用されていたころの貴重な画像が掲載されています。美しくも厳しい、そしてどこか優しい雰囲気すら感じられます。
本書は、カメラマン上條道夫さんの遺作でもあります。上條さんのすなおな目線が、表門から、内部に至るまで丁寧に作られた「美しい刑務所」をみごとに再現しています。
2016年10月22日、奈良少年刑務所の明治の煉瓦建築が、「旧奈良監獄」として、国の重要文化財に指定されることが決定しました。同刑務所は、日本最古の近代刑務所である明治五大監獄のなかで当時の建造物の全貌が現存する唯一のもの。来年3月には、同刑務所は廃止され、閉鎖後は、民間に委託され、耐震工事の後、「監獄ホテル」として活用される見通しです。
奈良に、この刑務所が作られたのは明治41年。翌年には、西の迎賓館とも呼ばれた「奈良ホテル」と、奈良女子大の前身である「奈良女子高等師範学校」も建設されました。明治末期、日本を代表するような重要な施設が、なぜ「奈良」に作られたのか。また、なぜ、かくも立派で過剰とも言えるほどに「美しい監獄」でなければならなかったのか。そこには、明治日本の近代化への強い思いを読み取ることができます。
西洋諸国に肩を並べるため「人権意識」に基づいて作られた奈良少年刑務所は、独自の充実した更生教育でも知られてきました。美しい刑務所だからこそ育くまれてきた心やさしくあたたかな教育。本書の後半では、刑務所と係ってきた25名のみなさんに著者の寮美千子がインタビューし、刑務所内での教育、地域との連携、保存運動、受刑者として体験したことなど多様な視点を盛り込みました。
建築学的な話については、藤森照信さん石田潤一郎さんにご寄稿いただき、五大監獄を設計した、山下啓次郎さんについては、お孫さんであり、奈良少年刑務所の保存運動の先頭になってこられた山下洋輔さんに原稿をいただきました。 「美しい刑務所」の美しい所以がここにあります、ぜひ写真とともにお楽しみください。
あとがきには、寮美千子が取り組んできた、ちょっとせつない詩の最終授業の模様も入れ込みました。寮美千子がこの刑務所で受刑者に詩を教えてた様子を描いた「世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集」(ロクリン社刊)と一緒に読んでいただけると、よりご理解いただけると思います。
「内容紹介」より
あらためて写真集を見ると、この建物が本当に美しい近代建築であることがあらためて実感できます。規則正しく並ぶレンガ、管理効率を考えて放射状に5本伸びる舎房など、ため息が出るほどです。
また、まだ使用されている独居房の内部、聖話室(神仏に拝する部屋。キリスト教・仏教・天理教が並んでいます)の様子など、外部の者は決して見ることができない所内の風景が見られます。
とはいえ、本書の後半では、受刑者の更生教育にかかわった方々などを中心に、文章を寄せています。少年刑務所という施設でありながら、どなたも廃庁を惜しまれているのが印象的でした。
建物の保存を望むだけではなく、受刑者やスタッフさんたちが全国に散り散りになることで、全国的にも優れた更生教育プログラムを続けてきた伝統が失われることを憂う声が多いのです。私のような部外者にはそれが意外であり、新たな側面に気付かされた思いでした。
また、受刑者の方が、阪神・淡路大震災の際の様子を語られていたのも興味深かったです。大きな被害はなかったそうですが、「余震が来たら閉じ込められるかもしれないから」ということで、管理者の方が居室の扉を開けて回ったのだとか。これがマニュアルなのか、独断だったのかはわかりませんが、素晴らしい対応ですね。
写真集としてはもちろん、そういった資料面の価値も高い一冊です。ぜひ手にとってみてください!