2017-07-16

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会レポート

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会レポート

明治時代に建てられた、美しいレンガ造りの「旧奈良監獄」(旧奈良少年刑務所)。史料館やホテルなどへ改修されることが決定したため、最初で最後となるであろう一般見学会が開催され、当日は1万人もが押し寄せて大混雑に。その美しくも危険な香りのする施設をじっくりと拝見できました!


2019年に史料館に、翌年にはホテルも

「奈良少年刑務所」(Wikipedia)は、全国に7箇所あった少年刑務所の一つです(2016年度末で廃止)。

その前身は「旧奈良監獄」で、美しい赤煉瓦と放射状に5方向に伸びる収容棟が特徴的です。建築家・山下啓次郎氏(ジャズピアニストの山下洋輔さんの祖父)が設計し、1908年(明治41)に完成しています。

明治政府が建設した五大監獄(千葉・長崎・鹿児島・金沢・奈良)のうち建築物が現存する貴重な遺構として、2017年2月に国の重要文化財に指定されました。

老朽化も進み、保存・活用の方法が検討されてきましたが、2017年5月、8社からなるソラーレグループのコンソーシアムが選ばれ、耐震補強や改装を行った後、2019年10月をめどに、旧奈良監獄が担ってきた役割と日本の行刑・矯正の歴史を伝える史料館が、さらに付帯するホテル・博物館・賑わい施設(レストラン、カフェバー、イベント空間、天然温泉の入浴施設などだとか)が開業する計画となっています。


全国から1万人もの見学者が殺到!

史料館・ホテルへの改装工事が始まる前、奈良市によって、最初で最後となる全面的な「旧奈良監獄(奈良少年刑務所)見学会」が開催されました。

初日に7月15日(土)は地元の方たち向けの見学会で、そちらはかなりゆったりとしていたようですが、翌16日(日)の一般見学会は一転して大混雑に!新聞各紙によると、全国から1万人もの人が見学に訪れ、SNSの情報などでは3時間待ち(!)というレベルの大行列になったとか。想像以上の注目度でした。


『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-01

7月16日(土)の「旧奈良監獄(奈良少年刑務所)見学会」当日の様子。レンガ造りの美しい「表門(ひょうもん)」がシンボルです。一般公開は13時から。私たちが到着したのが12時半ごろでしたが、すでにずらりと行列が伸びていて……

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-02
塀の脇へ、さらに駐車場を何度も折れながら行列が続くという、想像以上の人気ぶりでした。あまりの人出に、急きょ一般公開を1時間前倒しして12時に開門したようです。行列を見て引き返す人も多かったですし、とにかくすごかったですね

中央看守所から広がる5つの舎房

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-03
私たちは1時間ほどで入場でき、すぐさま奈良少年刑務所(旧奈良監獄)の「庁舎」へ並びます。ここでもわずかながら待ち時間が発生していました

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-04
講堂を抜けてすぐにある「中央看守所」。半円形のロビーの中央に演説台のようなスペースがあり、ここに看守さんが立ち、放射状に5本伸びた「舎房(しゃぼう)」を監視します。向って左手の舎房から「第一寮」「第二寮」と続き、「第五寮」まであります

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-05
中央看守所を正面から見たところ。2階部分も同様の作りになっていて、階下も見通せるように床ではなく網目状になっています

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-06
舎房の様子。奥には居室が並んでいます(1階は独居房。2階には複数人を収容する部屋もありました)。人がいるとどれくらいのスケール感がわかりやすですね

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-07
別の舎房。美しいですね!

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-08
上を見上げると、2階部分の通路の中央は金属でスケルトン状になっています。階下から上階を、上階から階下をそれぞれ監視しやすくするための仕組みなのでしょう

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-10
舎房を突端側から見たところ

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-09
今回、真ん中の「第三寮」が開放され、見学できるようになっていました。毎年、受刑者が制作した物品の販売などを行う「矯正展」の際に施設は公開されていましたが、ここまで立ち入ることができる機会はありません。貴重です!

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-11
第三寮の居室の扉。旧奈良監獄が創立された際のものをそのまま使用しているそうで、とても分厚くしっかりとした作りでした。一番上が網目状の視察窓ですが、これだけだと中がよく見えないので、後にその下の大きめの窓が設置されたそうです。一番下は食事などを運び入れる食器口です

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-12
居室の鍵。がっしりとした二重構えのもの。看守さんがうっかりでもしないと、中から開けることなど不可能でしょう

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-13
居室の内部。トイレと小さな洗面台しかありません。もともと板張りで、後の時代には畳を敷いて使っていたとか。扉を締めてじっとしていたら、閉所恐怖症になりそうな狭さでした

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-14
アーチが可愛らしい階段をのぼって上の階へ進みます


2階の床はいたるところが金網状に

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-15
2階部分の「中央看守所」。ここから5方向の舎房を監視していたのでしょう。目の前が網目状のため、1階部分も見えるようになっています

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-16
上を見上げるとこんなドーム状に。第一寮から第五寮までの名前が並んでいますが、それでも監獄だったとは思えない洗練されたデザインですね

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-17
舎房の2階部分の様子。通路の中央部分に金網がある、一般的にはなかなか見られない形式です

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-18
2階部分は第五寮を見学できました。1階も2階も結構な混雑でした(笑)

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-19
舎房2階の天井部分。あかり取りの窓がついています。両脇から渡された金具もふくめて、レトロで雰囲気のあるデザインです


作業を行った実習場の窓から見えるのは

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-20
この後、庁舎の周辺に建つ各施設(拘置監、実習場、医務所など)を見学します。建物の窓などから見える建物はレンガ造りで美しいのですが、やはり外界と切り離された場所であるということがいたるところで感じられました

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-21
広々とした「第1実習場」。受刑者が軽作業を行うスペースで、紙の箱を作る作業、100円ショップに置かれるような商品の袋詰、金魚すくいのポイなどをここで作っていたそうです

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-22
作業場の片隅にはトイレも。とても簡素です

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-23
第1実習場の窓からの眺め。塀に囲まれた殺風景な空き地のすぐ向こうには民家が建ち、彼方には若草山や大仏殿の屋根が見えます。もちろん、この窓も頑丈な鉄格子で覆われています。複雑な思いで奈良の景色を眺めたんでしょうね

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-24
こちらはその先にある「第5実習場」。金属加工などが行われていた場所です。さらに、「第8実習場」では受刑者が作成した瓦や木工作品などの展示もありました


拘置監や狂操監、江戸時代の牢獄も

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-25
「第6寮」(病棟)のホール部分。天井が高いドーム型になっています。どこか教会のような雰囲気すら感じられます

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-26
第6寮の居室部分は、鮮やかな色彩でした。平成に入って改修された際に、「刑務所には“色”がない」とのことで、あえて色彩豊かにしたのだとか外部通勤作業従事者が半開放の形で使用していたそうです

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-27
こちらは「拘置監」の様子。施設によって少しずつイメージが違っているのが面白いです

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-28
屋外にあるレンガづくりの独房「狂操監」。精神的に不安定になった人を、離れた場所に隔離しておくための場所です。懲らしめることを目的としているのではなく、精神的に不安定な人の発する騒音や大声の影響が一般受刑者にまで及ばないように、という配慮なのだとか

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-29
そのすぐ近くに設置された、江戸時代の牢獄「ギス監(通称)」。住み心地の悪そうな物件でした。旧奈良監獄が造られた当時、日本は諸外国と不平等条約を結んでいました。その改正を目指し、近代的な監獄や法制度があることをアピールするため、江戸時代の奉行所で使っていた牢獄をあえてここに展示したのだとか


有刺鉄線や高い壁。考えさせられます

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-30
旧奈良少年刑務所の隅々までたっぷりと拝見して、時々ここがどんな場所だか忘れてしまいそうになりましたが、高い見張り台に気づいたりすると、やはり特殊な場所であることがまざまざと思い出されます

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-31
室外のパイプなども、徹底的に有刺鉄線が巻かれていました。脱走を防止するためというよりも、そういう気持ちを起こさせないようにするためのものなのかもしれません

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-32
美しい赤煉瓦の壁と貯水タンク

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-33
高いレンガ造りの壁。やや黒ずんでいるところは、後から補修した跡のようでした。隙間もしっかりと埋められて、指先もかかりません

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-34
「自力更生」と書かれた石碑

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-35
舎房を外側から見たところ

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-37
敷地内を一周して表門へ戻ってきました。たっぷり2時間弱もかけてじっくりと拝見しました

『旧奈良監獄(奈良少年刑務所)』一般見学会-38
私たちが見学を終えた15時半ごろ、まだまだ行列が続いていて、表門の前も大混雑でした。貴重な機会をありがとうございました。2019年10月には史料館が完成し、翌年には日本初のいわゆる「監獄ホテル」が営業を始めます。またその時に来たいと思います!


■参考にさせていただきました

旧奈良監獄(奈良少年刑務所)見学会 - 奈良市
奈良少年刑務所 - Wikipedia
【特集】ドローン空撮&VR動画│日本初「監獄ホテル」誕生へ│朝日新聞デジタル
旧奈良監獄がホテルに 清水建設「観光への貢献うれしい」 :日本経済新聞






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