大和のたからもの (奈良を愉しむ)
奈良に伝わる古物の世界を幅広く紹介。読み応えたっぷりの良書です!
奈良の美しい風景や人・物を紹介する「奈良を愉しむ」シリーズの最新作。春日大社の元権宮司で、現在奈良県立大学の客員教授をなさっている岡本彰夫さんのご著書です。奈良に伝わる古物の世界を、美しい写真と豊富な知識から紹介しており、読み応えたっぷりでした!
説明文:「奈良には一般にはまだまだ知られていない風物、人物、工芸品などの「たからもの」が多く存在しています。永年、春日大社の権宮司を勤め、奈良の古文化への深い造詣をもち、大学でも教鞭をとる著者が、数あるテーマのうちから近世・近現代の項目中心に40件を厳選。「大和のいのり」「大和のいとなみ」「大和のたくみ」の三章立てで紹介します。各項目に付される美しい写真とともに見て、読んで、奈良の奥深さが味わえる一冊です。」
本書で取り上げられているのは、近現代の工芸品や芸術家など。歴史が長すぎる奈良だけに、近代の作家さんのことはあまり注目されなかったりしますが、こうして紹介されると、どれも味のある作品ばかりで、素晴らしい伝統が息づいていることがわかります。
●「大和のいのり」 - 春日祭・赤童子・経切・大仏殿・三社託宣・談峯・春日卓・おんまつりなど
●「大和のいとなみ」 - 千疋鹿・伏見宮文秀女王・郡山の殿様・中村雅真・會津八一・内藤淇園・天誅組・孝女もよなど
●「大和のたくみ」 - 奥田木白・松田正柏・安井出雲・奈良人形・森川杜園・加納鉄哉・富本憲吉・春日盆・正倉院など
書であり、画であり、工芸品であり、まだまだ私の知らない奈良の素晴らしいものがたくさん見られて、最後まで楽しく読めました。
例えば、古美術の修復に生涯を捧げたという「細谷而楽(ほそやじらく)」という方は、本書で初めて名前を知った方です。天平時代の十二神将で知られる新薬師寺。そのなかで、江戸時代の地震で砕けてしまい、ただ一体、波夷羅大将像のみが後の時代に造り直されています。これを行ったのが細谷而楽でした。伎楽面の修復なども手がけ、奈良の伝統文化を影から支えた方なのだとか。
失礼を承知でいえば、これまで「後の時代に作られた一体だけ残念」という見方しかできませんでしたが、その作者の存在を知ることで、より親しく感じられるようになります。渋い奈良人形なども、その成り立ちなどを知ると愛おしく思えてきますから、私ももっと興味を持って知っていきたいと思っています。
岡本さんの同種の著作には『大和古物散策』(紹介記事)などの3部作がありますが、発売から時間が経ってしまったため、書店などではあまり見かけなくなっていました。そういう意味でも、本書のような読みやすい内容のものが登場したことは嬉しいですね。
たくさんの方に手にとって欲しい良書です!ぜひ探してみてください。