『大和名所図会』のおもしろさ (上方文庫別巻シリーズ)
江戸時代の奈良を描いた観光案内書「大和名所図会」を丹念に読み解く一冊。面白い!
江戸時代の奈良の風景と風俗を知ることができる、1791年発刊の名所案内記「大和名所図会」。その当時の観光案内書のようなもので、古代に比べて手頃な資料が少ない江戸時代の奈良を、その当時の伝聞も織り交ぜて、活き活きと描いています。
私はこの世界観が大好きで、同種の本『奈良名所むかし案内―絵とき「大和名所図会」』(紹介記事)も手元に買ってあります。
こちらが奈良の30の土地に絞って紹介しているのに比べて、本書では114もの土地が登場!300ページ近いボリュームですので、解説も充実していて、とても読み応えがありました。
説明文:「昔と今を結ぶ名所旧跡道案内。寛政3年(1791)刊の『大和名所図会』は楽しい挿絵と共に、大和の名所旧跡の歴史や伝説が盛り込まれ、旅心をかきたてる観光案内書であった。本書では奈良の名所旧跡を踏破した著者が、その中から114項目を厳選し、多くの挿絵・写真と共に歴史とロマンの宝庫“大和”の魅力を紹介する。」
この手の本の面白さは、まずは江戸時代の寺社の境内がどのようなものであったか、現在と比べられることでしょう。廃仏毀釈で廃絶してしまった内山永久寺などの栄華を知ったり、後にお堂が焼失したものがあったり、今と変わらぬ威容を誇っている大寺院があったり。見ているだけで楽しいものです。
また、例えば春日大社の項目では、境内図とともに、春日若宮おん祭の様子、さらに茶屋で休憩する男たちが鹿に鹿せんべいを与えている図などが描かれています。今から約230年前のものですが、意外と変わらないものが多いことにも驚きますね。
大和名所図会では、奈良の名所を紹介するだけではなく、当時知られていた伝承や文学の舞台なども扱っています。
村田珠光と称名寺、眉間寺と多聞城、里村紹巴の紹巴屋敷、崇道天皇陵と八嶋寺、龍田本宮と龍田新宮、佐野のわたり、漆部の仙女、本居宣長と『菅笠日記』、白鳥陵、益田岩船、飛鳥京遺跡、国栖、宮滝、土舞台などなど、今では忘れ去られたようなものなどまで、かなり細かく扱っています。
江戸時代に天皇陵がどのような扱いだったのか、飛鳥の石造物がどんな様子だったのかなど、とても興味深いですね。解説文もしっかりと掲載してありますので、この本で新しく知ったことがたくさんありました。
ただ、時に解説文だけで図が省略されている項目もありますが、せめて小さくでも掲載して欲しかったと思います。その点だけやや不満ですが、その点以外は文句ありません。ややマニアックな世界ですが、楽しいですよ!