奈良名所むかし案内―絵とき「大和名所図会」【再読】
名所案内「大和名所図会」から江戸時代の奈良の風景と風俗を見た一冊。再読しても面白い!
1791年に発刊された名所案内記「大和名所図会」をもとに、江戸時代の奈良の風景と風俗を見ていく一冊。個人的にこの本は大好きで、以前に簡単な書評を書いています(こちら)。図書館で借りて読み終わった直後に自分用に購入し、久々に再読してみました。
奈良の歴史などに興味を持つと、古代~奈良時代の本などは豊富に見つかりますが、中世以降を扱ったものはそれほど多くありません。本書では、江戸時代の奈良の社寺の様子や、歌枕として知られていた名所、または庶民の暮らしぶりを描いていたり、知らなかった時代の奈良の姿が見られるのがいいですね。
説明文:「江戸時代の大ヒット旅行書シリーズ「大和名所図会」から場面を厳選し、絵ときスタイルという独自の趣向で古今の習俗や人間模様を活写する案内書。南都の寺、飛鳥の名所から四季の行楽地、修験の峰々や水辺、そして奈良人の暮らしや生業も題材にし、江戸期の奈良と現代をつなぐ生活文化や歴史・地理がわかる全三十景の名所が登場。」
江戸中期の奈良の街では、公慶上人に勧進によって奈良の大仏が再建され、1692年には大仏開眼供養が1ヶ月にわたって催されました。その際には、諸国から20万人という参詣者が押し寄せ、若草山まで参拝客で埋まったというのですから、今では想像もできないようなスケールです!
また、それ以前に、文人墨客が各地の歌枕を旅することが流行し、次第に庶民へ広がっていきます。こんな要因が重なって、奈良は現在のような観光都市として生まれ変わったのです。それに伴い、17世紀後半から、奈良の名所を紹介する名所案内記が何種類も登場しました。
その流行ののトリを飾るように現れたのが、本書のベースとなる「大和名所図会」です。1791年(寛永3年)、秋里籬島著・竹原春朝斎絵の名コンビによって出版されたもので、後発らしく6巻7冊に及ぶ力作でした。
本書は4章に分かれています
●第1章「南都の大寺」 法隆寺・東大寺・興福寺・元興寺・西大寺・當麻寺など
●第2章「飛鳥そして万葉」 天香久山・多武峰・益田岩船・初瀬・三輪社など
●第3章「神仙境の風景」 宮滝・山上嶽・葛城山・久米寺・雷丘など
●第4章「大和旅情」 奈良晒のさらし場・吉野の筏流し・龍田の紅葉・吉野の花見など
現在でも有名な観光名所ばかりですが、江戸時代からこうした書に掲載されるほどでした。浮世絵的な描き方をしてあるため、どの風景も現代とは違って見えますし、興福寺や薬師寺など、寺社の伽藍の様子は実際に違ったりするので面白いですね。
例えば薬師寺などは、ほぼ金堂と東塔しかありません。近年再建された西塔の位置には、この頃は文殊堂が建てられていたのだとか(西塔再建時に移転したのだそうです)。
こうした図を見ているだけでも楽しいですが、薬師寺の藤原京から移築されたか新造されたかの「薬師寺論争」や(移築されました)、薬師寺講堂で催されていた最勝会が、興福寺・維摩会、大極殿・御斎会と並ぶ南京三大会とされていたことなど、豆知識的な情報も豊富に紹介されています。
当時から歌枕として知られていた天香久山や、空を飛んでいる最中に洗濯女のふくらはぎを見て地に落ちてしまった久米仙人の伝説、吉野・宮滝の岩の上から川に飛び込むことを見世物にしていたこと、当時の吉野のお花見の様子など、伝説・産業・説話などがバランスよく紹介されているのも楽しいです。
ネットなどを見ると、新刊が手に入りづらい状態のようですが、奈良の本屋さんの店頭や図書館でも見つかると思います。奈良の歴史好きな方はぜひ手にとってみてください!