老舗を再生させた十三代が どうしても伝えたい 小さな会社の生きる道
遊中川の若社長が指南する中小企業のブランディング戦略。実践例多数で面白いです!
中川政七商店の十三代目の若社長のご著書。話題となった『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』から4年が経ち、日本の伝統工芸に特化してコンサルティング業務も行われています。本書ではその実例を踏まえ、より実践的な中小企業のブランディング戦略について語られています。
説明文:「安価な外国製品の流入や市場の縮小に苦悩するものづくり企業は、今後、どのように生きていけばいいのか。中小企業こそブランディングだ!「ものを売る」ではなく、「ブランドをつくる」を実践し、創業300年の麻の老舗を進化させてきた著者が自らの経験で培った中小企業経営の哲学を徹底公開!」
前半では、同氏がコンサルティングを行なってきた5社について、時系列ごとにどのような取り組みを行ったのかを実例を挙げています。焼物・鞄・刃物・カーペット・ニットなど、いずれも売上が1億前後の地方の中小企業ばかり。優れた技術力を持ちながらも、安価な海外製品に押されて先細っていくのが明らかなような企業に対するのですから、決して簡単なことではないでしょう。
そんな企業たちに、これまで作ってこなかったパン切り包丁であったり、蓑(みの)をモチーフにしたニット製ポンチョだったり、それぞれの戦える場を見つけだし、ブランドとして立ちあげていく過程がすごいですね。読んでいて迫力が感じられました。
冒頭に登場する有限会社マルヒロは、長崎県波佐見町にある陶磁器の製造卸の企業で、従業員数6名。自社ブランドを立ちあげたりしていましたが、ピーク時に2億を超えていた売上も半分以下に落ち込んでいました。そこへ乗り込んで財務状態を把握し、在庫管理の改善を図りながら、新ブランドを立ち上げることで新たな軸を作っていきます。新ブランドを立ち上げることを目標としていながらも、コンサルティング内容は業務全般にまでわたっています。
同社の置かれた環境を見ても、陶器の産地として特に知名度が高いわけでもなく、企業としても無名。技術と設備だけしか武器がないような企業です。それに対して、自分たちの強みと弱みを徹底的に分析し、どのような目標をもってどの方向へ進むのかを決定していく様子が詳細にレポートされていて、とても読み応えがありますね。ただただ方法論を述べられただけでは、身の丈に落とし込めずに机上の空論で終わってしまう可能性も高いのですが、その手法がとてもリアルに感じられました。
また後半では、決算書の読み方や商品政策の決め方などの考え方が手短に語られていますので、実践的ですね。
現在の日本には、このようなブランディングのノウハウが必要とされている企業は多いことでしょう。市場の先細りを感じている企業にとって、本書は素晴らしい指針となってくれると思います。