奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。
中川政七商店の若社長が中小企業のブランディングを語る
奈良の老舗企業「中川政七商店」の十三代目が書いたビジネス本。中小企業のブランディングについて、平易な文章で綴られています。私はビジネス的な内容には興味がないため、中川政七商店さんのいちファンとして拝読しましたが、とても興味深かったです。
今でこそ百貨店やSCで「遊中川」「粋更(kisara)」のショップを見かけることも珍しくありませんが、同社は1716年創業の奈良晒を扱う商店からスタートしています。老舗のご子息であれば、幼い頃から会社の跡継ぎとして英才教育を受けたりしたのかと思いきや、先代からは全くそんなことを言われることもなかったそうです。社会人生活を2年で切り上げて家業へと入ってから、旧態依然とした商売の慣習を改めることに注力。地方の中小企業でもできる方法でブランド力を高め、ついには表参道ヒルズにまで出店するまでの、経営的な指針などが解説されています。
…とはいえ、「遊中川などは歴史ある老舗ブランドだから特殊な例だ」と考える方もいらっしゃると思いますが、同氏が入社した10年前の社内の状況は、決して楽観できるようなものではなく、伝統産業に携わる企業ならではの焦りがあったでしょう。何もしなければ市場は先細るばかり、でも動き方が分からない。よくある状況だったと思います。そんな地点から、今では全国的に知られるようになったブランドを築き上げていったのですから、その方法論には説得力がありますね。
●ブランドの価値を高めるために、デザイナーではない経営者ができることは「ブランドという下駄をすべての商品に履かせてあげることだ。」
●広告にはお金をかけない代わりに、新聞や雑誌に取り上げられるようにする。ここで重要なのは、「商品に『切り口』をいかに持たせるかだ。」
などの言葉が印象的でした。この本がどこまでビジネスに役立つかは、私には分かりませんが、伝統産業にかかわる企業にとって一つの目標となるでしょう。同社のように、奈良から全国へ羽ばたく企業が登場することを願っています!