奈良に生きる 奈良を活かす―中川政七商店という生き方
奈良の老舗「中川政七商店」について徹底的に掘り下げた良書。ファン必読です!
創業300年を誇る奈良の老舗店舗「中川政七商店」について徹底的に掘り下げた、内容の濃い一冊。筆者は、手仕事ものなどの紹介を手がけるフリーライターで、奈良へ1年近く通いつめて本書をまとめています。「奈良晒とは何ぞや?」というところから始まっていて誰にも分かりやすいですし、ビジュアルが多めなのもいいですね。遊中川のファンはもちろん、奈良の商業史を知る上でもぜひ手にとって欲しい良書です。
紹介文:「奈良に本店を構える中川政七商店は、奈良晒(ざらし)と呼ばれる高級麻織物を代々扱ってきた創業300年の老舗だ。
近年、同社は奈良で育まれた伝統技術を生かした現代感覚の雑貨を扱う「遊 中川」「 粋更(きさら)」「中川政七商店」を立ち上げ、新しい和のビジネスモデルを構築してきた。
その先頭に立っているのが、13代当主の中川淳社長だ。
本書は、彼の経営思想を軸に、成功の背景にある奈良の伝統や文化、美意識、そして同社の歴史や活動、作り手の思いなどをビジュアルとともに紹介している。
ブランディングやライフスタイルビジネスに関心のある方はもちろん、伝統工芸を扱うメーカーや小売りなど、文化と伝統をビジネスの視点で読み解きたい方にも興味深い内容となっている。」
本書は6章に分かれていて、奈良晒の歴史と現状、奈良という町の紹介、中川政七商店の歴史と人、これからの展開というように、歴史と人、ビジョンが織り交ぜられた、バランスの良い構成です。ビジネス書のような戦略論に偏るのではなく、奈良という土地やその産物に興味がある人間にもとても興味深く読めるでしょう。しかし、カタログ的な商品の紹介などは最後の数ペーシのみ。単純にヨイショして商品の販売に結びつけるような内容では無い点も好感が持てますね。
個人的には、今でも月ヶ瀬村で作られている奈良晒の工房を紹介した部分がグッと来ました。主な生産拠点は海外に移していながらも、古くからの伝統を守るべく、月ヶ瀬でおばあちゃんが手作業で紡ぎだす工房は残し続けるのだとか。今どきなかなか出来ないことですよね。
中川政七商店という存在そのものがユニークですが、「奈良」という全国的に見れば明らかに風変わりな土地柄の影響も大きいでしょう。現代日本のペースとは少しずれた奈良という土地の良さを活かした企業ですから、これからも注目していきたいと思います。
なお、中川政七商店については、十三代目の中川淳社長の著書『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』も合わせて読むと面白いでしょう。こちらはよりビジネス寄りですので、興味がある方はどうぞ。