2017-04-18

大安寺の歴史を探る 大安寺歴史講座2

謎の多い大安寺の歴史をわかりやすく。いろんな気づきがありました!

謎の多い大寺院「大安寺」の歴史を、発掘調査の結果などから解説した一冊。「奈良の名所」を豆知識的に紹介した『今昔 奈良名所』と同様に、奈良市埋蔵文化財調査センター所長の森下惠介さんのご著書です。専門的な用語なども登場しますが、ややこしい内容をとてもわかりやすく描き、最後まで楽しく読めました。

知性と情熱で掘り明かす平城筆頭の名刹。歴史は地面の下に埋まっている…。かつての寺域の25分の1しか残されていない現在。平城京の発掘に40年近く携わってきた著者が、壮大な規模の大安寺を解き明かす。ジグソーパズルのようにディテールから全体を推理し、歴史を検証していく。

「内容紹介」より


大安寺の歴史には謎の多いのですが、716年(天平18年)に僧綱の名によって作成された「大安寺伽藍縁起并流記資材帳」という創建の経緯を記した書物が現存しています。(重文。国立歴史民俗博物館所蔵)。法隆寺や西大寺のものは断片しか残っていませんが、大安寺のものは完全な形で現存しているのだとか。

ここには「大安寺の始まりは聖徳太子の熊凝精舎だった」という、有名な記述がありますが、これも疑問が多いのだそうです。しかし、大安寺の前身である「百済大寺」が、天皇家が初めて建立した寺院であり、都が遷るとともに高市大寺、大官大寺などと名前を変えながらも、常に大王家の寺として、壮大な規模を誇っていました。

百済大寺の跡地をみられる吉備池廃寺跡からは、壮大な規模の塔跡(おそらく九重塔)などが見つかっています。伽藍配置としては法隆寺式となりますが、百済大寺の方が時代が先のため、大王が作った大寺を参考に法隆寺が建立された可能性もあるとか。

ちなみに、この時代の公式な文章には、寺名を書く際には真っ先に大官大寺が挙げられ、川原寺、飛鳥寺などが続く形で統一されています。寺格がもっとも高かったことの現れです。「続日本紀」でも、奈良時代中頃までは大安寺、薬師寺、元興寺、興福寺の順に記載されいたのだそうです。(平安時代には、東大寺、興福寺、元興寺、大安寺の順に)

平城京遷都の後も、大安寺は一大仏教センターとして機能しました。その伽藍は、「僧房」(僧侶が居住する建物)が講堂の三方を取り囲む「三面僧房」であっただけではなく、それがすべて三重になっていたとか。僧侶の数は877人と、千人近いお坊さんがいたそうです。

さらに、大安寺に入った道慈が大安寺の伽藍設計に大きく関与したこと、天智天皇系の寺として重要視され、光仁・桓武天皇の時代にも西塔の建築などが続いていたことなど、さまざまな歴史が紹介されます。

大安寺周辺の発掘の記録を中心に丹念に語られていきますが、そのスケールの壮大さに驚きます。しかし、現在もまだ疑問とされる点も多く、かつての大寺院の全容が解明された訳ではありません。これからの成果がますます楽しみになる一冊でした!



【大安寺の歴史を探る 大安寺歴史講座2】の関連記事

  • 『彼岸の図書館: ぼくたちの「移住」のかたち』~東吉野村の私設図書館オーナーご夫妻の移住生活。自分の居場所について考えさせられる良書です~
  • 『馬姫様と鹿王子 1巻 (ヤングキングコミックス)』~奈良×仏像にファンタジー風味をプラス。作者さんの奈良愛が溢れる楽しい作品です!~
  • 『いじめられたお姫さま 中将姫物語』~當麻曼荼羅を織り上げた中将姫の物語を分かりやすく。大人も子どもも楽しめます。~
  • 『龍華記』~澤田瞳子さんの「南都焼討」がテーマの歴史小説。意外な展開に引き込まれます!~
  • 『孤鷹の天 (徳間文庫) 』~平城京にあった学問所・大学寮が舞台。歴史小説家・澤田瞳子さんのデビュー作!~
  • 『あをによし、それもよし 1 (ヤングジャンプコミックス)』~奈良時代へタイムスリップした山上(憶良)主役のコメディ。面白い!古代好きはぜひ!~
  • 『天誅組―その道を巡る (京阪奈新書)』~奈良県内を中心に「天誅組」ゆかりの地をまとめたディープなガイドブック~
  • 『ならしかたなし 1 (花とゆめCOMICS)』~大仏顔の女子高生とクールな鹿。奈良を舞台にしたシュールなコメディー漫画!~
  • 『平城京のごみ図鑑 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし』~平城京の“ごみ”から見えるリアルな奈良時代。分かりやすくて面白い良書です!~
  • 『古墳空中探訪 奈良編』~奈良の古墳の空撮写真集。時代ごとの環境の変化も見られ、空中散歩の妄想が広がります~
  • 『DEER LAND -誰も知らない鹿の国-』~鹿たちの姿を印象的に切り取った素晴らしい写真集。奈良好きな方は必見です!~
  • 『沈黙する伝承―川上村における南朝皇胤追慕 (あをによし文庫)』~資料を読み解き「後南朝」の人々がよりリアルに。読み応えのある良書です!~


  • Twitterでフォローする
  • Facebookページを見る
  • Instagramを見る
  • ブログ記事の一覧を見る







メニューを表示
ページトップへ