語り伝える吉野の民話
吉野地方の16の民話を集めた一冊。観光マップ付きで読み聞かせにも最適!
奈良県の吉野地方の民話を集めた一冊。古から語り伝えられてきたものはもちろん、近現代の落語みたいなお話など、16のお話が収録されています。吉野のイラストマップが掲載されていたり、社寺の情報が載っていたり、この本を片手にその関連の土地を訪ねることもできるようになっています。
本書は、1980年代くらいから現地で聞き取りした民話を、お子さんにも読み聞かせできるような形で収録しています。この手の本はあまり読んだことがありませんでしたが、思っていた以上に楽しめました。
説明文:「奥深い歴史と信仰に彩られた「世界遺産」吉野地方の民話を、やさしい解説とともに紹介。吉野山のイラスト地図と名所旧跡の紹介を加え、吉野山散策のお供に、音読や子どもへの語り聞かせに楽しい民話集。」
山深い吉野のお話ですから、山中で何かに出会ったという系統のお話が多く見られたようです。山は生活に欠かせない恵みをもたらしてくれるだけに、聖なる場所として崇められたのでしょう。本書では大きな妖怪的な高坊主、河太郎(かっぱ)、伯母峰の一本足などの妖怪話が紹介されています。また、昔話的なキツネやたぬきに化かされたという系統のお話も読めます。
しかし、やはり特徴的なのは、吉野の歴史に根付いたものです。神武天皇を道案内したとされる井氷鹿(いびか)が現れた「井光の井戸」、高見山にある蘇我入鹿の首塚の話(飛鳥にもありますね)、役行者や金峯山寺の「蛙跳び」行事のもととなった姿を蛙に変えられた男の話、義経と弁慶、後醍醐天皇、さらに天誅組まで、かなり幅広く紹介されています。
壬申の乱の際、舟に隠れた天武天皇に2匹の犬が吠えたため、翁がこれを殺して窮地を救ったことから、その地区(窪垣内)では犬を飼わなくなったお話なども掲載されています。学校の隅には「犬塚」という記念碑があり、翁を祀った「御霊神社」も残されているとか。現代までそうした痕跡をたどることができるのが、さすがは吉野ですね。
吉野の民話といいつつ単なる昔話で終わらないため、大人が読んでもそれなりに楽しめます。100ページ弱のコンパクトサイズですので、興味がある方はぜひ手にとってみてください!