奈良まち奇豪列伝
近代の奈良まちのユニークな4名の偉人伝。仏像写真の先駆者・工藤利三郎も!
幕末から明治大正戦前まで、奈良まちで活躍したユニークな人物4名を取り上げた偉人伝。一般的には名前を知られていない方たちばかりですが、いずれも風変わりで人間味あふれる「奇豪」だったようです。丹念に資料にあたり取材を重ね、近代の奈良の風景が蘇るような、楽しい内容でした!
説明文:「ひと昔まえ、明治・大正の激動期の奈良まちには、眩いばかりの偉大な「変人」、つまり「奇豪」たちが生きていた。人間的には、品性申し分のない偉人もいれば、気難しい人物まで各人各様の個性であるが、「奇豪」と呼ぶべき共通項がある。本書では、奈良まちに住んでいた奇豪たちの中から4人を選び、付録として宇宙菴吉村長慶が著した『清国事情』からごく一部を現代訳で掲載する。」
本書で紹介されるのは以下の方たちです。
第1章 まげ・ひげ姿の漢方の名医「石崎勝蔵」(1845~1920)
第2章 呑んだくれの古美術写真師「工藤利三郎」(1848~1929
第3章 自作した飛行機で空を飛んだ「左門米造」(1873~1944)
第4章 伝道70年。最晩年を奈良で司祭した「ヴィリヨン神父」(1843~1932)
付録 吉村長慶「清国事情」抜粋現代語訳
私が知っていたのは、写真家・小川晴暘さんが「飛鳥園」を立ち上げる以前、奈良の仏像などを写真に収めていた工藤利三郎さんだけでした。その分野の先駆けともいうべき方で、興福寺・阿修羅像の修復前(手先が破損した状態)の写真や、東大寺大仏殿の1909年の解体修理前の写真など、奈良の貴重な風景を今に伝えてくれた大恩人です。そんな方の評伝が読めるのは嬉しいですね。
この方は、飲兵衛の個性的な方だったそうで、本書では当時の住まいや暮らしぶりなどが丁寧に描かれています。亡くなった後、その作品は引き取り手がなかなか見つからなかったそうですが、現在は入江泰吉記念奈良市写真美術館が所蔵しており「工藤利三郎撮影写真ガラス原板」として登録有形文化財となっています。
また、ならまちの名医として尊敬され、幾多の慈善事業などにも携わった石崎勝蔵さんのお話も興味深かったです。
●廃藩置県などによって市場に出回った貴重な書物を私財を投じて買い集め、県内初の公開図書館「石崎文庫」を開く
●20年間にわたって奈良公園の植樹を続けた。その数、1,845本。有名な奈良奉行・川路聖謨の功績に引けをとらない。奈良の鹿の保護活動にも熱心だった。
●平城宮跡の保存活動にも関わった。当初は「平城神宮」を創設するための活動だったが、後の保存活動の先駆けになった(大口の寄進者への返礼として、大極殿の礎石が贈られたとか!)。
私の知らない奈良の姿がいきいきと描かれていて、とても面白かったです。渋い内容ですが、興味のある方はぜひ!