奈良大和路の桜100選
写真とエッセイでつづる奈良の桜。やや古い本ですが、渋いスポットも載っていて役たちます
2001年に発売された、奈良の桜の本。奈良県内に咲く桜の写真100枚と、桜にまつわるエッセイの2部構成になっています。奈良市周辺から始まって、生駒や山の辺の道エリア、葛城、吉野など、県内の桜の名所を網羅してあり、私が知らない桜も数多く掲載されていました。
説明文:「人影もない隠れ里に巨桜が無心に美しく咲く姿に感動し、藁葺きの民家近くに咲く桜に日本の原風景をみる。選りすぐりの奈良大和路の桜100選。」
本書に掲載された写真は、写真家の方と主催する写真サークルの方々のもの。プロの方の作品と比べて、技術的に優れているかどうかは分かりませんが、さすがに皆さん、地元の美しい桜はよくご存知なのでしょう。桜の盛りを狙って美しい姿を収めています。
私自身、それなりに県内の桜スポットは観てきましたが、まだまだ知らない桜がたくさん存在するんですね。観光寺院ではなく、それほど大きくもない、地元に根づいたお寺さんの境内などに、ちょっと驚くような堂々とした桜の木が植わっていたりして驚きます。
観光的な有名スポットであっても、他の季節には桜と気付かずに見過ごしている木も多いんでしょう。この本は新たな発見がいくつもありました。
また、後半の「奈良大和路の桜と文学」「奈良大和路 桜紀行」という2本のエッセイも掲載されていて、これがどちらも読み応えがあって面白かったです!
いずれも奈良の桜を詠んだ歌を紹介するなど、文学的な面から奈良の桜を紹介しています。やや小難しく感じるかもしれませんが、こうした歌の一つでも覚えておくと、また桜が違った印象に見えてきたりしますので、ぜひ目を通してみてください。
気になった歌をいくつか挙げておきます。
●「見渡せば 春日の野辺に 霞立ち 咲きにほへるは 桜花かも」(万葉集 作者不詳 巻10-1872)
●「山峡(やまかひ)に 咲ける桜を ただひと目 君に見せてば 何をか思はむ」(万葉集 大伴池主 巻17-3967)
●「この花の 一枝(ひとよ)のうちに 百種(ももくさ)の 言(こと)そ隠(こも)れる おほろかにすな」(万葉集 藤原広嗣 巻8-1456)
●「奈良七重 七堂伽藍 八重桜」(松尾芭蕉)※芭蕉の句とは確定できないとか
●「吉野山 雲と見えつる 花なれば 散るも雪には まがふなりけり」(西行法師)
(歌意:果てしなく続く吉野の山並み。そこにかかるのは、雲かと思うと、じつは桜。そして、散る桜は雪かと見まごうばかりだ)
●「(※興福寺をおもふ)はるきぬと いまかもろびと ゆきかへり ほとけのにはに はなさくらしも」(会津八一 )
(歌意:春が来たと、今やたくさんの人たちがお寺の庭を行きかい、桜の花も美しく咲いていることだろう。)