奈良民俗紀行―西大和編 (あをによし文庫)
西大和エリアの風習や伝統行事を紹介した渋い一冊。さすがは奈良!民俗文化の宝庫ですね
奈良の「西大和」エリアに伝わる風習や伝統行事を紹介した一冊。筆者は、奈良県立民俗博物館に務めるなどした方で、河合町と平群町を本拠とした各ミニコミ誌の連載記事をまとめた内容になっています。
取り上げられる「西大和」というエリア呼称は古いものではなく、三郷・王寺・斑鳩・河合・上牧・広陵・香芝などを指しており、本書ではその周辺の一部も取り上げています。文化財が多数残る斑鳩町はともかく、その他の市町村はそれほど知名度はありませんが、さすがは歴史ある大和の地だけに、さまざまな民俗文化が大切にされているんですね。私自身、現在はこの地域の住人ですが、まったく知らなかった行事ばかりで、その多様性には驚くばかりです。
個人的には、自宅からも近い葛城市當麻の集落の玄関に、1年を通じて立派な注連縄がつけてあるのを不思議に思っていましたが、これは當麻寺の山門手前にある菅原神社の天神講のものなのだとか。毎年7月25日に講員の方々自ら作っているのだそうです。大阪の天神祭と同じ日に、山を越えた當麻の地でこんな行事が行われているんですね。
・正月に玄関前などに砂をまいておく「砂まき」(香芝・三郷・広陵)
・各地で行われる「綱掛け」行事(平群・大和郡山・広陵)
・薬隆寺八幡神社の宮座「三日オコナイ」(三郷)
・達磨寺で行われる「達磨会式」(王寺町)
・小豆粥で作柄を占う「筒粥の祭り」(大和郡山)
・有名な広瀬神社のオンダ「砂掛け祭り」(河合)
・雨乞いの太鼓踊り(ナムデ踊り)(王寺)
・炎天下の大松明「東坊城のホーランヤ」(橿原)
などなど、伝統の風習がいまでも各地に遺っているのです。そのすべてを体験することは難しいと思いますが、消えて無くなったりする前に、一度は観ておきたいと思うものがいくつもあります。いつか読みなおしてみたい一冊でした。